無痛乳がん検査のもととなった「ドゥイブス法」とは?
着衣のままで行える無痛の乳がん検査「ドゥイブス・サーチ」が注目を集めています。従来のX線マンモグラフィとは異なりMRI(磁気共鳴画像撮影)を使う検査法で、何度検査を受けても放射線被ばくの心配はありません。しかもマンモグラフィより高精度で、乳がん検査で一般的に行われている超音波検査で発見できないがんも映し出すことが可能だといいます。
「この検査のもととなった『ドゥイブス法』は2004年、全身のがんを診る技術として論文発表しました。この検査法により骨転移や悪性リンパ腫などの診断が容易になり、20年には一部が診療報酬加算の対象、またカラー表示できるようにもなりました」
PET検査のデメリットをカバー
こう話す東海大学工学部医用生体工学科の高原太郎教授は、放射線科の専門医です。約30年前、当時開発されたばかりの脳梗塞のMRIを用いた診断法に出合ったそうです。そこからMRIにのめり込み、独自に研究して生み出したのが「ドゥイブス法」でした。
「全身のがんを調べるPET検査は普及していますが、わずかとはいえ放射線被ばくがあって何度も検査を受けることは難しい。また、PET検査はブドウ糖を静脈注射しなければならないなど、検査に時間も要します。それらのデメリットをドゥイブス法でカバーしました」
放射線被ばく、所要時間、費用…すべてPET検査に勝る
PET検査では、がん細胞が取り込みやすいFDG(放射性物質がついたブドウ糖)を静脈に注射します。がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像に映し出すことで、がん細胞の有無や広がりがわかる仕組みです。CT(コンピューター画像診断法)と組み合わせたPET—CT検査では、がんの位置などより詳しい状態を知ることができます。ただし、放射線による被ばくに加え、検査のために半日程度の時間を要すること、さらに1回の検査に10万円ほどの費用がかかります。
「PET検査は時間もお金もかかります。一方、ドゥイブス法は注射や待ち時間の必要はなく、乳がん検査は15分、全身の検査でも30分あまりで済みます。また、PET検査よりも安価です」
ドゥイブス法なら、がんの早期発見も進歩
高原教授は当初、ドゥイブス法の人間ドックへの導入は「お金儲けといわれるのが嫌」で消極的だったといいます。ところが約8年前、「調子が悪い」という父親の全身をドゥイブス法で撮ったところ、大腸がんが見つかったそうです。肝臓への転移も画像に映し出されてステージ4と診断され、1年後に亡くなりました。
「ドゥイブス法をもっと早く普及させていればと、後悔と自責の念にさいなまれました。ドゥイブス法ならば、誰もが人間ドックをもっと気軽に受けられるようになる。がんの早期発見もできるでしょう」
その思いを具現化するべく、がん検診への応用の足掛かりとして18年にスタートしたのがドゥイブス・サーチでした。
「日本のがん検診は受診率が低い状況が続いています。もっと手軽に受けやすく、精度の高い検査があれば、多くの人が活用するでしょう。そういった状況をつくりたいと思っています」