世界中の論文を検証し「誤った健康情報」を一刀両断
世に流れる「健康情報」は玉石混交。「生命」に関わる情報ゆえ取捨選択は慎重であるべきだ。そこで、“論文オタク”を自称する現役医師が、世界中の論文を検証して、「誤った健康情報」を一刀両断に切り捨てる注目すべき本が出た。『身体を壊す健康法』(柳沢綾子著、Gakken刊、1650円)がそれだ。
科学的根拠を持たない「誤った健康法」が蔓延
著者は年間500本を超える世界中の学術論文を読破する研究者にして年間1万人以上の臨床経験を持つ現役医師。日本人の間で信じられている健康法をエビデンスに照らし合わせて検証したのが本書である。
「かぜにはビタミンC」など、誰もが一度は見聞きしたことのある「常識」(別項参照)に疑問を持たなかった読者もいるだろう。しかし、著者によるとこれらは科学的根拠を持たない「誤った健康法」なのだという。
「けがをしたらまず消毒」もいまや非常識
たとえば「けがをしたらまず消毒」は、20~30年前までは医学界でも常識だった。しかし、傷ができた直後に消毒液で消毒したグループは4日後には100%が細菌感染していたのに対して、生理食塩水で洗っただけのグループはまったく感染していない—という研究結果が出ている。
これについて著者は、消毒液によって、傷を治すために重要な働きをする線維芽細胞の増殖を抑制する上に、細菌と戦う上で重要な白血球やマクロファージなどにも、消毒液は有害な存在になるから—と説明する。
傷ができたときは消毒薬ではなく、生理食塩水で洗い流すのが“新常識”というわけだ。
ビタミンCに「かぜ予防」の有用性は無し
かぜ予防にビタミンCを利用している人は多い。これを妄信するのも危険だという。
2013年にイギリスで極めて信憑(しんぴょう)性の高い調査が行われた。ビタミンCを常に摂取していたグループとそうでないグループの間で、かぜの発症率に差はなかったという。
かぜを発症してからの「罹患期間」は、ビタミンCを摂取しているグループのほうがわずかに短かったが、かぜを引いてからビタミンCを摂取しても、双方のグループ間に重症度や治るまでの「罹患期間」に有意差は出なかった。
このため、「かぜ予防」としてのビタミンCに有用性は認められないが、かぜにかかっている期間が少しだけ短くなるので、「飲んでいて損はない」程度の存在だと結論付けている。
ビタミンCの摂取に過剰な期待を寄せる日本人は少なくないが、「ビタミンCに期待し過ぎることなく、他のビタミンを含めて、栄養はまんべんなく摂りましょう」と著者はいう。
信じる者は救われる—ならいいが、信じすぎて損をしたのでは意味がない。この本を読んで、情報を整理してみてはどうだろう。
「誤った健康常識」(本書から抜粋)
- けがをしたらまず消毒
- ひじきは鉄分豊富
- がんは遺伝する
- 糖質制限で痩せる
- 半身浴が健康にいい
- かぜにはビタミンC
- 冷え性対策に厚手の靴下
- 少しの酒は体にいい
※以上はすべてエビデンスのない「誤った健康情報」だ、としている