重要性増す腫瘍内科
近年、がん治療で注目を浴びているのが、「腫瘍内科」の存在だ。がんや肉腫などの悪性腫瘍にかからない限り接点のない診療科だが、がん治療の進化とともに重要性は増すばかりである。腫瘍内科を専門とする聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授の伊澤直樹医師に、現状と未来について聞いた。
腫瘍内科は、主にがんの化学療法を専門に行う診療科だ。従来は外科医がそのまま化学療法まで行うケースが少なくなかったが、近年は化学療法に関しては腫瘍内科が担当するケースが増えている。
その理由を伊澤医師が語る。
治療薬の多様化で“専門家”に需要
「昔は化学療法と言っても使われる抗がん剤の種類が少なく、また副作用のコントロールも限定的なものでした。しかし近年は治療薬も副作用止めも急速に多様化したことで、より専門的な知識が求められてきているのです」
これまで使われてきた殺細胞性抗がん剤は、副作用の種類や出現時期も似ているため対応しやすいが、それでも微妙なコントロールが求められる場面はある。これが分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬になってくると、それぞれの使い方だけでなく、複合的な使い方も勉強する必要が生じるので、なおいっそう専門に特化した知識が必要になるのだ。
新薬登場で化学療法は大きく様変わり
「新しい薬が開発され、それを用いた治療法が頻繁にガイドライン(医療現場で適切な診断と治療を補助することを目的に、診療の根拠や手順について最新情報をまとめた指針)に収載されるので、ここ数年でも化学療法は大きく様変わりしています。今後はさらに劇的な変化が進んでいくはずなので、そこに携わる医師には、それに応じた内科的トレーニングが求められます。腫瘍内科の活躍の場は確実に広がるはずです」
進化する遺伝子検査によっても、化学療法は大きく様変わりしているという。
遺伝子検査進化、免疫治療発展で手術不要への期待も
「早い段階で網羅的な遺伝子異常の検査ができるようになると、一次治療で使える薬の種類も増えてくるので、それだけでも治療成果の向上が期待できます。加えて免疫治療を術前から始めていく取り組みも進んでいるので、将来的には手術をしないでがんを消してしまうことも可能になるかもしれません。いまの陣容では足りなくなるので、今後は腫瘍内科医の育成が課題になると思います」
これまでは手術ができる外科の人気が高かったが、医療の仕組みそのものが変革する中で、医学生の目指す方向性にも変化が生じる可能性はある。
がん治療が確実に進化
「分子生物学が好きな学生は一定数いるので、まずそこに訴求していきたい。そもそも今後どんなにAIが発達したとしても、患者さんの話を聞き、その症状から薬を選び、組み合わせる“さじ加減”をしていく仕事は、人間である医師にしかできません。新薬開発にも関われる夢のある仕事なので、そのあたりをアピールしていきたいですね」
伊澤医師の笑顔の先に、がん治療の確実な進化が見える。