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大腸がん治療最前線(3)~積極治療に変わった化学療法

大腸がん治療最前線(3)~積極治療に変わった化学療法
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大腸がんは「どこにできたか」で治療法が変わる

大腸の長さは成人で1~1.5メートルもある。上行結腸と下行結腸、そして直腸は固定されているのに対して、一番上部にある横行結腸とS状結腸はどこにも固定されていないため、人によって長さが異なるのだ。

そんな大腸のがんは「大腸のどこにできたか」によって治療法が大きく変わって来る。大腸がんの部位別の治療法について、聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授の伊澤直樹医師に解説してもらおう。

左右で“別の臓器”と言えるほど違う

「大腸は、右側と左側とで発育過程が異なるので、“別の臓器”と考えてもいいくらいなんです。そのため同じ大腸がんでも、右側にできたのか、あるいは左側か—によって化学療法の戦略が異なります」

ここでいう「左右」は、実際には横行結腸から下行結腸に移行する曲がり角を境に区分する。つまり下行結腸より先(肛門側)を「左」、横行結腸より手前(口側)を「右」と呼ぶ。

左側のがんで遺伝子に変異がなければ分子標的薬で効果

現状ではまず左右に関係なく遺伝子検査が行われる。その結果、左側にがんがあって、RAS、BRAF、HER2などのがん遺伝子に変異がない(「野生型」と呼ばれる)と認められた場合、抗EGFR抗体薬(セツキシマブやパニツムマブ)という分子標的薬を1次治療で使うことで、従来と比較して長期の生存期間が見込めることがわかっている。

一方、右側にがんがある場合は、たとえ前述の遺伝子変異が無かったとしても、1次治療でこうした治療法は推奨されない。

右側のがんは病院ごとに対応異なる

「右側にがんがある場合には1次治療としてフルオロウラシルをベースに、オキサリプラチン、イリノテカン、それにアバスチンを加えた併用療法で治療成果が上がることがあります。ただ、これは化学療法を専門にする医師がいないと副作用のコントロールが難しいため、病院によって対応が異なるのが実情です」

ケース別に事情が異なるとはいえ、この10~20年で手術不能の大腸がんに、こうした化学療法のレパートリーが増えてきた。それ以前の大腸がんは「最も薬が効きにくいがん」とされ、手術ができなくなった時点から先の医療は「敗戦処理」のイメージが強かった。

化学療法は「5次治療」まで用意

それが現状では最大で「5次治療」まで化学療法が用意され、状況次第ではコンバージョン手術(化学療法でがんを縮小させて行う手術)に持ち込める例も出てきているのだ。

それだけに化学療法に精通した腫瘍内科医の役割は大きくなっている。

「化学療法の“質”は、治療による効果はもちろんですが、毒性マネジメント、つまり副作用のコントロールがどこまでできるか—で左右されます。思い切った薬の使い方ができるかどうかは、ある意味腫瘍内科医の腕の見せどころでもあるのです」

がん治療を始める時、腫瘍内科医がどこで関与するのかを、事前に確認しておくことは、極めて重要なことなのだ。

解説
聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授
伊澤 直樹
大腸がんは日本では年間約15万8000人の新規患者がおり、5万4000人が亡くなる深刻な疾患。近年では若年層でも発症が増えている。自覚症状が出るのは進行した段階だが、健診での便潜血検査が重要だ。早期発見で内視鏡切除や低侵襲手術が可能。
執筆者
医療ジャーナリスト
長田 昭二
医療ジャーナリスト。日本医学ジャーナリスト協会会員。1965年、東京都生まれ。日本大学農獣医学部卒業。医療経営専門誌副編集長を経て、2000年からフリー。現在、「夕刊フジ」「文藝春秋」「週刊文春」「文春オンライン」などで医療記事を中心に執筆。著書に『あきらめない男 重度障害を負った医師・原田雷太郎』(文藝春秋刊)他。