最も身近で手強い重大疾患の一つ
日本だけで年間15万8000人の新規患者がいて、5万4000人が命を落としている「大腸がん」。いま最も身近で手強い重大疾患の一つだ。そこで5回にわたり、聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学講座准教授の伊澤直樹医師に、大腸がん治療の最前線について聞く。
大腸がんは高齢になるほどリスクが高まる病気だが、近年は若い世代でも見られるようになってきたと伊澤医師はいう。
「30代や40代の働き盛りとされる世代で大腸がんが見つかるケースも増えてきています」
がん家系の若い世代にも増えている
大腸がんの発症因子として挙げられるのが欧米食や運動不足など。
一方で若い世代での発症には遺伝的要因、いわゆる「がん家系」も関係しているとみられ、結果として広範囲の世代が罹患対象に含まれることになるのだ。
大腸がんが見つかるきっかけとして多いのは、まず「血便」。ただ、痔を持つ人はそれによる出血と見誤る人もいるので注意が必要だ。
早期に自覚症状は出ない
もう一つ病気発見の大きなきっかけになるのが「健診」で行う「便潜血検査」だ。便の中から目に見えない血液を探し出す検査で、これで陽性となると大腸内視鏡検査を経て大腸がんの確定診断につなげていく。
「大腸がんの場合、早期で自覚症状が出ることはまずありません。腹痛や腸の膨満感、吐き気、下痢、便秘などの症状が出ると、すでに病気が進行していることが多いので、自覚症状を頼りにするのは危険です」
早期なら内視鏡での切除が可能なケースも
大腸がんに限ったことではないが、がんは早期で見つかれば「治せる可能性」も高まる。しかも、早期に近いほど治療の選択肢も多く、低侵襲の治療(体へのダメージの小さな治療)が選べる可能性が高まる。
「実際に早期の大腸がんなら、内視鏡による切除が可能なケースも少なくありません。肛門から内視鏡を挿入し、そのカメラが映し出す大腸の内部を見ながら、内視鏡の先端に付いている電気メスなどを操作して腫瘍を切除していく治療です。外科的な手技に近い治療ですが、多くの病院では消化器内科が担当しています」
低侵襲の手術も発達
一方、外科的手術が必要なケースでも、早期であれば腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術が可能だ。
「転移はないけれど腸の壁にがんがしみ込んでいる(浸潤)ケースや、周囲のリンパ節が腫れているときなどは内視鏡治療では難しいので、外科的手術となります。それでも近年はお腹を大きく切開する開腹手術を行うケースはまれで、多くを腹腔鏡や手術支援ロボットを利用した低侵襲手術が占めています。おなかの表面に数カ所、小さな穴をあけて行う手術なので、術後の回復も早く、入院期間も短くすみます」
大腸がん治療を考えるとき、何よりも「早期発見」が重要だということが、このことからもお分かりいただけるだろう。