記憶は努力できるが努力して忘れることはできない
玄関の鍵をかけたかどうか気になり、戻って確認したことはありませんか? 50歳を過ぎたころから気になるようになります。
記憶というのは不思議です。学生時代の一夜漬けの試験勉強のように、われわれの脳は努力して記憶することはできるのですが、努力して忘れられるようには作られてはいません。生物の脳は記憶するという方向にしか進化していないのです。忘れるのは、知らないうちに自然に任せて起きるということです。
忘れようと努力しても忘れられない…例えば「失恋」
だから、忘れよう、忘れようと努力すればするほど、逆に忘れられなくなります。
その代表が失恋です、失恋の思い出は努力で忘れることはできませんが、たいていは時間とともに消えていきます。この気持ちが消えていかないときに、いろいろな不調がおきます。
記憶は感情に大きく左右される
ところで、記憶は感情に大きく左右されます。強い恐怖を味わったときや驚いたときは、その時のことがずっと記憶に残ります。
脳の中で記憶に関連した部位は海馬(かいば)という場所にあり、その隣に感情を左右する扁桃体という場所があります。
海馬も偏桃体も進化の過程では、非常に古い脳に属します。脊椎動物の基本である魚類に海馬も扁桃体も備わっているのです。ということは、魚類にも原始的ですが、記憶も感情もあるということです。
魚には感情といってもわれわれが持つような感情ではなく、怒りや快といった衝動や気分に近い感覚があるだけです。多くの動物は出来事を感情と一緒に記憶しているのです。
50歳前後から「くだらないことが気になって忘れられなくなる」
われわれの記憶は自分でコントロールすることがなかなかできません。特に、これは忘れてしまおうということはできない相談であり、多くの場合くだらないことが気になって忘れられなくなります。それが起きるのも50歳前後からです。
脳の神経細胞は年齢とともにその数は減少していきます。しかしその数は1000億以上もありますので、少しくらい減っても何も変わることはありません。
神経細胞の中には電気が流れ、神経細胞同士はシナプスでつながっていて、シナプスでの連絡は神経伝達物質で行っています。神経細胞は1個で働くのではなく、神経細胞同士でつながってネットワークを作って働いています。
記憶は短い記憶は海馬で処理された後、大脳の神経細胞のネットワーク上で長期記憶として保持されます。この長期記憶のネットワークは年をとっても失われることはありません。年とともに失われるのは海馬の短期記憶の能力です。
鍵をかけたか思い出せないのは短期記憶の障害
冒頭お話しした鍵をかけたかどうか思い出せないというのは、短期記憶の障害です。海馬の機能が低下してきたといってもよいでしょう。そしてそれが気になるのは、不安感が亢進(こうしん)している状態です。
海馬の隣にある扁桃体の神経細胞は年とともに減ることはなく、むしろ扁桃体をコントロールしている前頭葉の能力が年とともに落ちるため、むしろ不安感情が露骨に出てきます。
不安感情と年齢に押しつぶされないように好奇心を持とう
年齢に押しつぶされてはいけません。
海馬は再生能力が強いので若返らせることができます。海馬を若くする方法は好奇心を持つことです。遊び心です。
そして扁桃体を制御する前頭葉を若返らせるには、日常のストレスを取り去ることです。前頭葉はストレスで萎縮します。ストレスを取り去る方法は個人差があり難しいですが、誰にでも当てはまる方法は都会から離れて、田舎や森を30分程度散歩して遊ぶことです。
忘れっぽくなったかなと思ったら、若いときにした遊びを繰り返しやってみて、田舎や森散歩をするのがベストです。