肥満は「悪いこと」なのか
春物の服に袖を通したときに、「ウエストのホックが止まらない!」とショックを受ける人が毎年います。たび重なる冬の会食、寒さからの運動量の減少など、さまざまな要因によって体重は増えます。
一方、美容目的の「やせ薬」と称される適用外薬を使用し、「頬がたるんで老け顔になった」という悩みを聞くことがあります。肥満は本当に悪いことなのでしょうか。
BMI25以上で別の病気も発症していると「肥満症」
「日本での肥満の定義は、BMI(体重㎏÷身長m÷身長m)で「25」以上です。ですが、それだけでは病気とはいえません。BMI25以上で糖尿病などの生活習慣病、もしくは、変形性膝関節症など、肥満に伴い別の病気を発症しているときに『肥満症』という病気になります」
こう説明するのは、東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センターの齋木厚人教授。高度肥満症(BMI35以上)の患者を数多く診断・治療し、外科や心療内科などと連携しながら集学的な治療を得意としています。
肥満症の疑いあれば病院へ
「肥満症の場合は、ご自身で減量を行うことが困難なケースも珍しくありません。ご自身で取り組むことで痩せすぎる、筋肉が減るなど、かえって健康害につながるケースもあります。肥満症の疑いがあるときには、医療機関を受診して適切な治療を受けましょう」
BMI25以上は、たとえば、身長170センチの人は体重73キロ以上、160センチの人は体重64キロ以上が該当します。そのうえで、高血圧や脂質異常症、2型糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症などの病気を併発、あるいは、腹部CT(コンピューター画像診断)を用いて内臓脂肪型肥満と診断されたときに、「肥満症」と診断されるのです。単に体重が重いだけでは、病気とはいえません。
肥満症は命の危機にも
「体重が多くても不健康とは限りません。肥満症になると、命に危機が及ぶような事態を招きかねないので治療が必要なのです。高度肥満症の人は、メンタル不調を抱えていることも多い。薬物療法や胃を小さくする外科的治療、さらにはメンタルケアなど、トータル的な治療が必要になります」
高度肥満症はBMI35以上。170センチの人は体重102㎏以上、160センチの人は体重90キロ以上が該当します。中には、何度もダイエットに挑戦し、その後のリバウンドで体重がどんどん増えてしまった人もいます。
心まで壊れないように
また、痩せられないことから、自分を責め続けて心が壊れてしまうケースも珍しい話ではありません。引きこもって食生活が乱れ、高度肥満症が悪化することもあります。
この状態を断ち切るには、高度肥満治療を行う医療機関で適切に治療を受けることが重要になります。
「肥満症の症状と生活環境などの背景は、患者さんごとに異なります。その人に合った治療をいかに選択しサポートするか。患者さんは、治療効果を体感することでモチベーションが上がり、肥満症や生活習慣の改善が実現しやすくなります。1人で悩まずに受診してほしいと思います」