自閉症スペクトラム(ASD)とは
自閉症スペクトラム(ASD)という発達障害をご存じですか。スペクトラムとは連続で、この病名は自閉症から正常者までを含みます。正常者では、病気でないけれどそのような気質があるという感じになります。
これこそがASDの特徴です。ASDは、注意欠如・多動症(ADHD)とは違い、多動児ではありません。そしてこの記事のテーマであるアスペルガーとは、知能低下のないASDです。
大人のASD診断のきっかけは
最近、大人になってからアスペルガーと診断されるケースが増えています。重度の自閉症では会話が成立せず、その診断は比較的容易です。しかし、自閉症の程度が軽い場合、そして知能低下のないアスペルガーは、社会生活に出たのちコミュニケーション障害や対人関係のトラブルが問題となり、「大人のASD」という診断を受けます。
他人の気持ちが理解できない…
アスペルガーの基本的症状は、他人の気持ちが理解できない、自分の気に入ったことだけに執着するという傾向を持つことです。
以前は遺伝性疾患と考えられていましたが、現在では幼少期または授乳期の養育環境によって起きることがわかってきました。授乳期に母親からの愛情ある接触がないと、その子の将来に愛着障害が生じることが疫学調査でわかっています。
気持ちを理解するのは高等な精神作業
恋人同士が愛し合っていると感じるのは、最高の幸せに違いありません。自分と相手が同じ気持ちを持っていることがわかるのは、かなり高等な精神作業です。子供は1歳になれば、指さしの意味がわかりますが、動物では犬だけです。
実際、イヌはヒトの気持ちがわかるので、孤独から逃れるためイヌを飼う人は多いのです。互いに同じ気持ちをもつことを理解できるのは、孤独から逃れる最上の方法です。それは一人ではないという感情を生み出すからです。
幼少期に親と過ごすことで「愛着」形成
愛着を感じるという能力を手に入れるためには、遺伝的素質に加えて、幼少期の環境が重要です。愛着形成は遺伝と環境の両方から影響を受けます。
例えば、小学生までしか親と暮らさなかった場合と、成人するまで親と一緒に暮らした場合には愛着には大きな差が生じます。日本における受験戦争では、子供が中学生の時から親から離れて、勉強一筋で過ごす場合も多く、愛着形成障害はむしろ起きやすい状況にあると言ってもよいのです。
人間同士の愛着が集団をつくった
自然界に生きる動物は、互いの気持ちを理解することはできないので、集団でいようとも孤独の中に生きています。人間だけが相手の気持ちがわかるという能力を手に入れ、それを環境によって強化し、人間同士の愛着へと育て、この愛着が集団を強くし、原始時代に人間が生き延びる基礎となったのです。
ホモ・サピエンスの集団とチンパンジーなどの集団を分岐させるためには、それまで長い世代に渡って続いた慣習を打ち破るため、集団の中に勇敢で変わった個人が必要だったのでしょう。恐らく、才能と協調はトレードオフの関係になっているのです。
われわれは、一人では人生の喜びを感じません。どれほど高度な仕事をしていたとしても、他の人間との愛情関係といった相互関係がないと満足は得られません。
現代では「軽度のアスペルガー」が望ましい!?
ただ他人に気を使いすぎるのも神経症の原因となるので、軽度のアスペルガーはむしろ現代では望ましい性質かもしれません。大人のアスペルガーと言われた場合、むしろそれを誇りに思い、自分にしかない才能をもう一度考えるべきです。
ただし、アスペルガーの配偶者がカサンドラ症候群(夫と十分に意思疎通が取れないために苦しんでいる状態)に陥っていないこと、また周囲の同僚を無視していないかは、気をつける必要があります。