閉経後エストロゲン減少で骨密度低下
年を重ねると骨粗鬆(そしょう)症による骨折リスクが上がる。要介護原因の第3位は転倒骨折で、特に女性の場合は閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少で、骨密度が低下しやすいと一般的にいわれる。
男性も無縁ではない。ホルモンの影響で骨折しやすくなる人がいる。だが、骨密度だけでは骨の健康はわからない。糖尿病などの持病を抱える人は、骨密度測定装置による骨密度の検査結果が平均値より高値でも、骨折してしまうケースがあるからだ。
骨の質を決めるコラーゲンが重要
「骨というのは、鉄筋コンクリートの建物にたとえることができます。コンクリートがカルシウムに相当し、鉄筋に相当するのが棒状のタンパク質であるコラーゲンなんです。コンクリートが十分であっても、鉄筋にサビがたまってボロボロになれば、建物は壊れるでしょう」
こう話すのは、東京慈恵会医科大学整形外科学講座の斎藤充主任教授。大学院時代にコラーゲンの成熟・老化度を分析する手法を独自に開発して、2006年に骨のコラーゲン評価法による「骨質マーカー」を構築し、骨粗鬆症の新たな診断法と治療法を確立した。
「鉄筋がサビてボロボロになると、コンクリート壁だけでは建物を支えきれません。骨の量だけではなく、骨の質を決めるコラーゲンの善しあしが骨の強度に重要なんです。コンクリートの劣化と鉄筋のサビが、骨粗鬆症の正体といえます」
骨折に気づかず、別の部位も次々骨折
骨の健康では、カルシウムとコラーゲンの両方を知ることが重要になる。斎藤教授が開発した骨質マーカーでは、骨粗鬆症は3つのタイプ(別項)に分けられ、骨折リスクが異なるという。骨密度が高く骨質の良い、いわば骨が健康な人を「1」とした場合、骨折リスクは、骨質劣化型で1.5倍、低骨密度型は3.6倍、骨質劣化型+低骨密度型は7.2倍も上がる。
「骨粗鬆症で、特に日本人で多い背骨の骨折は、骨折したことに気づかない『いつの間にか骨折』が3人に1人の割合になります。そのままにしておくと、5人に1人は別の部位を骨折し、ドミノ倒しのように次々と骨折を引き起こすのです(ドミノ骨折)」
骨粗鬆症の骨折は痛みをあまり感じない
骨折では骨が折れるが、ヒビが入るなど骨が破壊された状態でも、痛みや腫れといった自覚症状を伴うのが一般的だろう。しかし、骨粗鬆症による“いつの間にか骨折”では、背骨が潰れても、痛みをあまり感じないことがある。また、痛みを感じたとしても「単なる腰痛」と勘違いすることも、珍しい話ではない。それほど、自覚症状に乏しいのだ。
「国内で骨密度が低い人は約1560万人と推計されています。“いつの間にか骨折”のリスクが高い人がそれだけいることになります。身長が若い頃と比べて3センチ以上縮んでいたら、“いつの間にか骨折”の可能性があります。早めに整形外科を受診しましょう」
治療では、骨密度を上げる薬に加えて、骨質を改善する薬の併用が功を奏す。カルシウムだけでなく、コラーゲンを考えた治療と対処法で骨折を退けよう。
骨質マーカーによる3つの骨粗鬆症タイプ
- 骨質劣化型=骨密度は高いものの、骨質は低下している
- 低骨密度型=骨密度は低いが、骨質は良い状態を維持している
- 骨質劣化+低骨密度型=骨密度も低く、骨質もよくない状態