骨粗鬆症 骨の健康を守る

骨の健康を守る(3)~3人に1人が「いつの間にか骨折」

骨の健康を守る(3)~3人に1人が「いつの間にか骨折」
予防・健康
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閉経後エストロゲン減少で骨密度低下

年を重ねると骨粗鬆(そしょう)症による骨折リスクが上がる。要介護原因の第3位は転倒骨折で、特に女性の場合は閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少で、骨密度が低下しやすいと一般的にいわれる。

男性も無縁ではない。ホルモンの影響で骨折しやすくなる人がいる。だが、骨密度だけでは骨の健康はわからない。糖尿病などの持病を抱える人は、骨密度測定装置による骨密度の検査結果が平均値より高値でも、骨折してしまうケースがあるからだ。

骨の質を決めるコラーゲンが重要

「骨というのは、鉄筋コンクリートの建物にたとえることができます。コンクリートがカルシウムに相当し、鉄筋に相当するのが棒状のタンパク質であるコラーゲンなんです。コンクリートが十分であっても、鉄筋にサビがたまってボロボロになれば、建物は壊れるでしょう」

こう話すのは、東京慈恵会医科大学整形外科学講座の斎藤充主任教授。大学院時代にコラーゲンの成熟・老化度を分析する手法を独自に開発して、2006年に骨のコラーゲン評価法による「骨質マーカー」を構築し、骨粗鬆症の新たな診断法と治療法を確立した。

「鉄筋がサビてボロボロになると、コンクリート壁だけでは建物を支えきれません。骨の量だけではなく、骨の質を決めるコラーゲンの善しあしが骨の強度に重要なんです。コンクリートの劣化と鉄筋のサビが、骨粗鬆症の正体といえます」

骨折に気づかず、別の部位も次々骨折

骨の健康では、カルシウムとコラーゲンの両方を知ることが重要になる。斎藤教授が開発した骨質マーカーでは、骨粗鬆症は3つのタイプ(別項)に分けられ、骨折リスクが異なるという。骨密度が高く骨質の良い、いわば骨が健康な人を「1」とした場合、骨折リスクは、骨質劣化型で1.5倍、低骨密度型は3.6倍、骨質劣化型+低骨密度型は7.2倍も上がる。

「骨粗鬆症で、特に日本人で多い背骨の骨折は、骨折したことに気づかない『いつの間にか骨折』が3人に1人の割合になります。そのままにしておくと、5人に1人は別の部位を骨折し、ドミノ倒しのように次々と骨折を引き起こすのです(ドミノ骨折)」

骨粗鬆症の骨折は痛みをあまり感じない

骨折では骨が折れるが、ヒビが入るなど骨が破壊された状態でも、痛みや腫れといった自覚症状を伴うのが一般的だろう。しかし、骨粗鬆症による“いつの間にか骨折”では、背骨が潰れても、痛みをあまり感じないことがある。また、痛みを感じたとしても「単なる腰痛」と勘違いすることも、珍しい話ではない。それほど、自覚症状に乏しいのだ。

「国内で骨密度が低い人は約1560万人と推計されています。“いつの間にか骨折”のリスクが高い人がそれだけいることになります。身長が若い頃と比べて3センチ以上縮んでいたら、“いつの間にか骨折”の可能性があります。早めに整形外科を受診しましょう」

治療では、骨密度を上げる薬に加えて、骨質を改善する薬の併用が功を奏す。カルシウムだけでなく、コラーゲンを考えた治療と対処法で骨折を退けよう。
 

骨質マーカーによる3つの骨粗鬆症タイプ

  1. 骨質劣化型=骨密度は高いものの、骨質は低下している
  2. 低骨密度型=骨密度は低いが、骨質は良い状態を維持している
  3. 骨質劣化+低骨密度型=骨密度も低く、骨質もよくない状態
解説
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授
斎藤 充
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、慈恵会医科大学卒。2020年から現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外をけん引している。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。