肥満はあらゆる病気のリスク因子
肥満は2型糖尿病、心筋梗塞などの心血管疾患、脳卒中など、さまざまな病気のリスク因子で、改善することが不可欠です。ところが頭ではわかっていても、中高年になって代謝が落ち運動量が減ると、通常の食事量でも体重が増えることがあります。ストレス発散の暴飲暴食や間食も加わると体重は増える一方。そこで、肥満症治療について聞きました。
満腹感を高める肥満症治療薬登場
今年2月、保険適用の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注」が発売されました。週1回の皮下投与の注射薬です。
「『ウゴービ皮下注』はGLP—1受容体作動薬で、空腹感を減らし満腹感を高めることで食事療法の効果を高め、肥満や健康障害が改善する薬です」
こう説明するのは、東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センターの齋木厚人教授。内科・外科・メンタルヘルス・食生活指導などの集学的なチーム医療で、高度肥満の患者を数多く救っています。同センターは、日本屈指の高度肥満症治療施設として知られています。
「ウゴービ皮下注を皮切りに、今後数年間で肥満症を改善する治療薬はいろいろと登場する見込みです。専門医にとっては、治療の選択肢が増えるわけですが、一般の方には『夢のやせ薬』と勘違いしないでいただきたいと思います」
重大な副作用の可能性も
GLP—1受容体作動薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として活用されてきました。
ですが、患者の著しい体重減少が見られることから、“適応外使用”として不適切に美容・ダイエット目的で自由診療でも使用されています。GLP—1受容体作動薬には急性膵炎や胆のう炎・胆管炎などの重大な副作用の可能性があり、適切な施設で治療を受ける必要があります。昨年11月には、国民生活センター、日本肥満学会、日本糖尿学会などが注意喚起を行いました。
肥満症治療適応外では使用できない
また、「ウゴービ皮下注」に関しては、「肥満症」という病気と診断された人が、日本肥満学会の「最適使用推進ガイドライン」に沿って使用し、適応外使用はできないことになっています。
「健康的にやせるには、単に体重を減らすというだけでなく、メンタル面にも注意が必要です。欧州医薬品庁(EMA)は、GLP受容体作動薬『セマグルチド』と『リラグルチド』の使用で、自傷・自殺企画リスクの関連が疑われる有害事象を評価しています」
美容・ダイエット目的ではメンタルの危険も
「セマグルチド」は経口薬で、「リラグルチド」は皮下注射です。どちらも2型糖尿病の治療薬で、糖尿病治療も数多く行う齋木教授は、その効果を実感しています。
一方、むやみに美容目的等で適用使用外の乱用により、副作用でメンタルや命に危機が及ぶことも懸念されます。
「体重が多くても、過体重による健康障害がなく、肥満症と診断されなければ不健康とは言い切れません。見た目だけを気にして不用意にやせることで、健康害につながるようなことは避けてください」
日本肥満学会のホームページ(日本肥満学会で検索)には、肥満症を診療できる病院の一覧表があります。肥満が気になるときには、肥満症治療を行う専門医に相談しましょう。