あきらめる前に
中高年の不快感や尿もれにつながる泌尿器を取り囲む「骨盤底」に関するトラブル。男女の泌尿器トラブルに精通した日本橋骨盤底診療所所長の安倍弘和医師は、「症状があっても、それは年齢的に『普通だ』『仕方がない』と思ってあきめてしまうのではないでしょうか?」と話す。あきらめる前にできることは、まだまだある。
「骨盤底」トラブルのセルフチェック
まず、「骨盤底」トラブルが悪化する原因のうち該当項目をセルフチェックしてみよう。
- ゆがんだ姿勢の座位(デスクワーク、ドライバー、ゲーム・SNS、動画鑑賞など)
- 骨盤底筋を含めた全身の筋力低下(ロコモティブシンドローム)
- 不適切な排泄習慣(便秘による息みや排便時間の延長)
- 加齢、性ホルモン低下、運動不足、バランスの悪い姿勢
- ストレスによるセロトニンの低下
- 運動不足や過食による体重増加
4つの改善策
いくつか思いあたる人は、「骨盤底」を改善するため、すぐにできることを確認しよう。
- 規則正しい寝起き、食事時間、体重維持のためのウオーキングなど生活習慣の見直し
- 座り仕事の際は、背筋を伸ばし姿勢をただす。テレビや動画鑑賞、ゲームをするときも体のバランスを意識する
- 30分から1時間に1回、立ったり座ったりして同じ動作を続けない
- 骨盤の出っ張った骨の周辺、内閉鎖筋(ないへいさきん)を自身でマッサージしてほぐす
あらゆる悩みに有効な「骨盤底筋体操」の手順
その上で「骨盤底のあらゆる悩みに有効なのは『骨盤底筋体操』です」とアドバイスする。「軽い尿もれや下腹部に違和感がある方は、ぜひ始めてください。骨盤底の血流をよくすることは膣の潤いや勃起力の改善につながります」と語る。「骨盤底筋体操」は次の手順で行う。
- 楽な姿勢(あお向けでも座ってもOK)で、ゆっくり息を吐きながら、肛門(女性は腟)を軽く5秒間程度、引き上げる(力を入れすぎると逆効果)
- 尿道・肛門(腟)をきゅっと締めたり緩めたり、2~3回繰り返す
- リラックスする
この(1)~(3)をワンセットとして10回程度行う
通勤時にバスや電車での“ながら体操”もオススメ。1日5~10回程度、小分けにすることが大切で、最低3カ月は継続してほしい。難しいと感じる人は理学療法士などに相談を。
体操の効果がない人は?
この骨盤底筋体操で効果がない人は?
「肥満で腹圧性尿失禁の人には減量が有効です。また、圧性尿失禁は手術で8割の方が治ります。切迫性尿失禁単発の場合は、薬でコントロールし、日常生活に問題がない程度までの治療が可能です。骨盤臓器脱にはペッサリー(リング状の挿入器具)の保存療法もあり、効果がない場合は手術をお勧めしています。手術することで併発していた過活動膀胱が改善することもあります」
男性は前立腺肥大に注意
さらに、気をつけておくべきことを安倍医師はこう指摘する。
「男性の下半身の悩みで一番は前立腺肥大です。前立腺は膀胱に隣接し尿道を取り巻いており、その大きさだけでなく形状に問題があります。尿道が細くなると、膀胱が尿を出そうとがんばって筋肉が厚くなり、尿をためることができなくなるのです。原因がわかれば適切な治療が可能です」
このほか、メンタルに起因する場合は、精神科の受診を勧めることもあるという。
筋肉が集中した骨盤底は、老後の生活の質を左右する。適切な改善や治療で尿もれに立ち向かおう!