骨盤底の不具合で尿漏れ
「骨盤底」とは、靭帯・筋肉・皮下組織などで構成されている恥骨から尾骨の間にあるひし形状のプレート臓器で、骨盤内臓器(膀胱・子宮・直腸)を支え、排泄(排尿・排便)、生殖(生理・出産)をつかさどっている。人が生きていく上で欠かせない機能が集約し、日々酷使されているゾーンでもある。ゆえに不具合が起きると日々の生活に暗い影を落とす。その一番の問題が尿漏れだ。
成人の4割が尿漏れを経験
衛生用品メーカーのユニ・チャームが実施した「下着汚れのトラブルに関する男女2万人の意識調査」(2017年)では、成人の4割が「尿漏れ」を経験していて、さらに3割近くが「便もれ」を経験していた。
ひとくちに尿漏れといってもさまざまな原因がある。男女では尿漏れの発生の原因や症状が異なる。そもそも尿道の長さが女性は約4センチで、男性は約20センチと構造上の大きな違いがある。女性はくしゃみや咳などの刺激でも、尿が約4センチの尿道から「ちょびもれ」につながりやすく、男性は尿道が長いゆえ、用を足したあと尿道にある“残尿”が「じわっともれる」ことがある。
女性は骨盤底筋群がダメージ受けやすい
女性は出産や加齢によって筋肉が傷んで骨盤底筋群がダメージを受けやすい。一方、男性は前立腺肥大などの問題が絡んでくる。男女の泌尿器に詳しい日本橋骨盤底診療所所長の安倍弘和医師が解説する。
「尿失禁の治療は、原因によって異なります。何が原因かをしっかり突き止め、それに合わせた適切な治療が必要です。レーザー治療、理学療法、磁気刺激治療、ホルモン補充、内服、手術などによって改善が大いに期待できます。諦めずに泌尿器科医へご相談ください」
注目の再生医療
最近では、粘膜に問題がある場合、「PRP(多血小板血漿)」という再生医療が注目されているという。前立腺摘除後の尿失禁に自身の血液からPRPを採取して尿道の数カ所に注射する治療法だ。約半年後に尿漏れが半減し、2割の人は完治したとの報告もある。女性の腹圧性尿失禁で軽症の人やGSMの粘膜病変にも効果が高いと期待されている。
さまざまな治療法の進歩で、人生100年時代、高齢になっても尿漏れに悩まなくなるかもしれない。まずは専門医と相談しよう。
尿漏れの原因と種類
【過活動膀胱】(男女)原因:加齢、前立腺肥大、性ホルモン低下、メンタル 症状:突然、尿意をもよおし我慢が困難
【腹圧性尿失禁】(男女)原因:骨盤底筋の衰え 症状:咳、くしゃみ、重いものを持つなど、力むと漏れる
【切迫性尿失禁】(男女)原因:脳と膀胱の連動の不具合、過活動膀胱の悪化、脳梗塞などの病気の後遺症、脊髄の病加齢による骨盤底筋の衰え 症状:急な尿意で膀胱が勝手に収縮。トイレが近く夜間、何度も。骨盤臓器脱を誘因することも
【混合性尿失禁】(男女)原因:腹圧性と切迫性の病態が混合した場合 症状:大量に漏れる
【排尿後尿滴下】(男)原因:加齢による筋力低下・前立腺肥大 症状:排尿後に、尿が漏れる
【夜間頻尿】(男女)原因:加齢、テストステロン低下、無呼吸症候群、内科疾患、薬の副作用、骨盤底筋力低下 症状:夜眠っている間に排尿のために1回以上起きなければならない状態
※腹圧性尿失禁、過活動膀胱、切迫性尿失禁、過活動膀胱、骨盤臓器脱は単発でも複数同時でも発症する