骨盤底筋の場所は?
尿もれなどで注目される「骨盤底」は文字通り骨盤の底にある。靭帯・筋肉・皮下組織などで構成される恥骨から尾骨の間にあるひし形状のプレート臓器で、骨盤内臓器(膀胱・子宮・直腸)を支え、排泄(排尿・排便)、生殖(生理・出産)をつかさどる。簡単に言えば、いすに腰掛けたとき座面に当たる部分で、この筋肉部分をまとめて骨盤底筋群と呼ぶ。
排泄から性的トラブルまで
骨盤底周辺のトラブルはさまざまある。男女の構造上の違いで、ややタイプは異なるが筆頭は尿もれ、頻尿、排尿困難といった排泄の問題。加えて、男性は前立腺肥大、勃起不全、射精障害、女性は骨盤臓器脱、GSM(閉経後の腟の不快感、尿漏れ、性交痛)などが知られる。
すぐさま命に関わらないが、QOL(生活の質)を著しく下げる。けれど、人には相談しにくく、「年のせい」とあきらめたり、放置してしまう人が多い。
下腹部のどうしようもない不快感急増
「骨盤底周辺のトラブルは加齢だけが原因とは限りません」と警鐘を鳴らすのは、男女の泌尿器科疾患に詳しい安倍弘和医師(日本橋骨盤底診療所所長)。
「最近、男女ともに年齢に関係なく急増しているのが、下腹部のどうしようもない不快感に悩まされる『骨盤筋膜性疼痛症候群(MPPS)』です。肛門痛、膀胱痛、下腹部痛、陰部痛などを訴えて来られますが、どこから痛みが出ているのか原因が不明確でMPPSとまとめられた疾患名になっています」
骨盤筋膜性疼痛症候群の原因診断は難しい
骨盤筋膜性疼痛症候群はどのように治療するのか?
「痛みや不快感の解消には、原因を突き止める必要があります。粘膜か筋肉か神経かメンタル由来か。他の疾患によるものなのか。あるいはミックス要因なのか。それぞれ治療法が異なりますが、医療従事者も原因がはっきりつかめず、適切な医療提供が非常に難しいのが現状です」
女性ホルモン低下の場合も
たとえば更年期後の女性の2人に1人は悩まれされるGSMは、腟と外陰の痛みやかゆみまたは尿失禁が主訴だ。女性ホルモン低下で尿道や膣粘膜の状態が悪くなったのが原因で、女性ホルモン補充や腟へのレーザー治療で粘膜に潤いや尿禁制を取り戻す。
骨盤底筋が原因なら体操が有効
一方、骨盤底筋が原因の尿漏れは、骨盤底筋がうまく収縮しない、あるいは筋肉の萎縮の問題で、改善には骨盤底筋体操が有効。重症の場合は外科的治療を行う。筋肉のみが原因なのに粘膜へのレーザー治療で症状が悪化した、と安倍医師を訪ねる人もいるそうだ。
「骨盤底の内部は、筋肉・粘膜・血管・神経などが複雑に絡み合っています。排泄や生殖機能には心理的な影響もあります。触診や多様な検査で、知恵の輪をほどくように痛みや不快感の原因をつきとめるのが治療の最初の一歩だと考えて診察しています」
ストレッチ、ブロック注射、手術など
原因さえわかれば治療選択が明確になり、治療効果が格段にあがる。筋肉が原因ならストレッチ、筋膜リリースなどで痛みの原因となる筋肉をほぐし、理学療法士の指導に加え、セルフケアや生活習慣改善のアドバイスを受けられる。神経なら痛みを発する神経のブロックや痛みの緩和に鍼治療や灸など。さらに、精巣周囲や卵巣の静脈拡張で痛みを発している場合は静脈切断手術などで対応するという。
下腹部の痛みの原因はこれだけ種類がある
- 膀胱(間質性膀胱炎/膀胱痛症候群)
- 肛門、直腸(痔、直腸脱など)
- 子宮、腟壁(腟炎:細菌性、ウイルス:ヘルペス、トリコモナス、萎縮性など)
- 陰部痛(陰部神経痛や感染)
- 筋肉(内閉鎖筋などの骨盤内の筋肉)
- 血管(骨盤内の静脈の拡張など)
- 神経(陰部神経や腰部椎間板ヘルニアなど)
※膀胱、腟、子宮、直腸ではない場合、神経、血管のいずれか、あるいは複数の原因が疑われる