睡眠時無呼吸が交通事故につながることも
睡眠時に気道が塞がって呼吸が一時的に止まる睡眠時無呼吸症候群は、軽度でも心筋梗塞などの発症リスクが高いことが、昨年明らかになった。「たかが軽いいびき」と侮っていると命の危機につながる。
「睡眠時無呼吸症候群は、循環器疾患のリスクを上げるだけでなく、日中のパフォーマンスの低下にもつながります。車や電車の事故につながりかねない。しかし、本人は、日中の眠気を自覚していないことがあり、そこが問題です」
こう話すのは、順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学の谷川武教授。20年以上も前から睡眠時無呼吸症候群の研究に取り組んできた。
脳が眠っていても自覚できず
2003年に起きた山陽新幹線の事故では、運転士が居眠り状態になり、自動運転制御装置で停止。運転士が睡眠時無呼吸症候群であることが判明した。その後、国土交通省の「SAS(睡眠時無呼吸症候群)対応マニュアル」の作成に関わり、ドライバーの睡眠時無呼吸症候群の研究も数多く行っている。
「事故を起こしたときに、運転手は必ずしも居眠りを自覚しているわけではありません。睡魔が自覚できず、『気がついたら』衝突していたことを事後に証言する人が多いのです」
睡眠時無呼吸症候群では、日中、脳が眠っていても、自覚がないような状態を引き起こす。
「眠気テスト」では診断されないことも
一般的な診断では、就寝中の呼吸の状態の検査に加え、日中の眠気などについて「エプワース眠気テスト」(ESS質問票)を用いてチェックする方法がよく使われている=別項。
これらの診断にも盲点はある。居眠りなど日中のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていない場合は、睡眠時無呼吸症候群と診断されないことがあるのだ。谷川教授らの研究では、「ESS質問票」で日中の自覚的な眠気を判定できない人も、「気がついたら事故」のリスクが高かった。
眠気感じず「気づいたら事故」も
「睡眠時無呼吸症候群は、呼吸再開での覚醒で睡眠の質が低下し、慢性的な睡眠不足に陥ります。4時間睡眠を2週間続けると、3日間徹夜した脳と同じようになりますが、眠気を感じないので本人は気づいていないのです」
仕事のパフォーマンスの低下やうっかりミスに、実は睡眠時無呼吸症候群が関係している可能性もある。繰り返しになるが、日中の眠気を感じにくいと、なかなか睡眠に問題があるとは考えにくいものだ。
この点を重視して国交省は、プロのドライバーに対しては睡眠時無呼吸症候群の検査を定期的に行うよう指導している。一方、厚労省のメタボリックシンドロームに着目した「特定健診」(40~74歳が対象)には、睡眠時無呼吸症候群の検査が含まれていない。睡眠時無呼吸症候群を調べるには、自分で医療機関を探し受診するしか、今のところ方法がない。
仕事上、あるいは通学の送り迎えなど日常的に運転している人のうち、「特にメタボの人は、一度、睡眠の状態を調べてください」と谷川教授は呼びかける。
エプワース眠気テスト
- 座って読書をしているとき
- テレビを見ているとき
- 他の人もいる公共の場所で動かないで座っているとき(会議の出席や映画館での鑑賞時)
- 他人が運転の車に約1時間休憩なしで同乗
- 午後休憩をとるために横になっているとき
- 座って人とおしゃべりをしているとき
- 昼食後、静かに座っているとき
- 自ら運転し渋滞などで数分間止まっているとき
※うとうとすることが絶対になければ0点、ときどきうとうとするときは1点、居眠りをすることがよくある2点、いつも居眠りするときは3点で計算。合計点で11点以上は病的な眠気の可能性がある