狭心症の手前でじわじわ動脈硬化進行
ベテラン俳優の前田吟さん(79)=顔写真=は後期高齢者を目前にした2018年、走ったり散歩したりすると、たびたび急に胸が痛くなる症状が出たという。診断は、心筋梗塞の手前の狭心症。治療で事なきを得た。狭心症は急に発症するが、その前に動脈硬化がじわじわと進行していたことが主な原因とされる。これは他人事ではない。
日立健康管理センタ長の中川徹医師(放射線診断科)は、日立製作所やグループ企業の社員らの検査で何人もこの狭心症の症状を診てきた。中川医師が頸動脈エコー検査を実施した45歳の社員のうち、佐竹慎吾さん(仮名)も動脈硬化による狭心症と診断された。検査では頸動脈が3分の1近く狭くなっていた。中性脂肪は380㎎/dl(基準値は空腹時30~149㎎/dl)と危険な数値。
狭心症から心筋梗塞、突然死へ
「中性脂肪は血液中に溶け込んだ脂肪のことで、人間の活動のエネルギー源ですが、増えすぎると悪玉コレステロールLDLとともに血管の中にプラーク(油の塊)を形成します」と中川医師。
佐竹さんは、狭心症にとどまらず、心筋梗塞に発展するリスクを抱えていた。心臓に血液を送り、酸素と栄養を届ける役割をしているのが、大動脈から心臓の外側を冠するように走行している冠動脈だ。冠動脈は左右に計3本あり、狭心症は、その冠動脈が動脈硬化などで狭窄し、胸の痛みや圧迫感を招く病気だ。プラークや血栓によって閉塞すると、さらに心筋梗塞に至り、突然死のリスクが高まる。
頸動脈エコー検査で冠動脈狭窄わかる
佐竹さんは実は、空腹時血糖値(正常値は70~110㎎/dl)が215と正常値を大きく上回り、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に該当していた。命にかかわる多くのリスク因子を抱えていたが、頸動脈エコー検査によって自分の危険な状況を把握でき、治療を開始して命の危機から逃れたのだ。
「冠動脈の検査は通常、治療目的で行うものですので、冠動脈が狭窄しているかどうかは、通常の健診や人間ドックでは分かりません。それを補助するために頸動脈エコー検査があり、この検査で動脈硬化が進行していることが分かれば、冠動脈を含め全身で動脈硬化が進んでいるこが推察されます」
メタボ、高血圧が加わり実年齢より進行
そのうえで、「今回の一連の検査では、45歳で頸動脈に動脈硬化が進行しているケースが多数見つかりました。佐竹さんのように、45歳ですでにかなり深刻な病状に発展している例もありました」と中川医師は話す。
冒頭で触れた前田吟さんのケースでは、検査で冠動脈の狭窄が判明。冠動脈を広げる手術を受け無事成功した。いまは健康状態を回復している。
中川医師は45歳社員に対する集中的な頸動脈エコー検査を振り返り、「動脈硬化は加齢によってだれにも起きます。さらにメタボや高血圧、糖尿病などと診断されている人の血管は、実年齢に比べて動脈硬化が早く進行し、血管は硬く、厚く、狭くなっていきますが、本当にそれでよろしいですか」と警告している。
【イラスト解説】
青色で囲んだ部分が心臓の冠動脈で狭窄すると狭心症に、閉塞すると心筋梗塞に
佐竹さんの血管の断面図。薄い黄色部分は血流で、その下の青色部分がプラーク(中川医師提供)