動脈硬化が45歳以前から進行
「脳梗塞や心筋梗塞は高齢者の病気のように思われがちですが、すべての高齢者にリスクがあるわけではありません。発症する人は動脈硬化という下地がある。45歳で始まっている人がいれば、その前から徐々に進行している人もいます」
日立健康管理センタ長の中川徹医師(放射線診断科)は、45歳の社員に対して集中的に頸動脈エコー検査を実施した結果、こうした傾向が分かったという。中川医師はこの中から、45歳ではほぼ正常だったのに、55歳で頸動脈が60%も狭窄してしまった工藤遥人さん(仮名)の例を挙げた。
脂質異常症を甘く見てはだめ
「実は、工藤さんは45歳時に悪玉のLDLコレステロール値(基準値70~140㎎/dl)は170を超えていました。しかし、治療を断り、その10年後には危機的な状況になりました」
工藤さんはLDLが高いことで脂質異常症と診断された。脂質異常症を甘く見る人は工藤さんだけではない。自覚症状がほとんどないことから、治療を敬遠する人が多い。長年放置したことで最悪の場合、脳梗塞や心筋梗塞につながる。「脳や心臓の病気というより血管病です。始まりは動脈硬化です」と中川医師は警鐘を鳴らす。
悪玉コレステロールが高いと進行早まる
そもそも、動脈硬化はどのようにして起こるのか。「加齢に伴い、誰にも起こりますが、LDLが高いと進行が早まります。また、日頃の食事内容の偏りや、運動不足、肥満、ストレスが重なると、実年齢よりも早く動脈硬化が進行します。その一つの目安が45歳で、この時に危機が始まっているケースが多いのです」と中川医師。
放置すると、血管にプラーク(こぶ)ができ、プラークが破れると、それを修復するために血栓ができる。プラークと血栓によって厚みが増し、血管が狭窄する。血栓が何らかの拍子にはがれて脳に飛ぶと、脳梗塞を発症してしまう。
頸動脈エコー検査で血管内の様子を検査
血管の中はふだんの生活では見えないため、危機感をなかなか持てない。先の工藤さんは狭窄に該当するが、あなたはどの段階だろうか=下のチェックリスト参照。
動脈硬化が心配な向きには検査がある。両側の上腕と足首の血圧を測定するABI検査や拍動の伝わり方の速さを調べるPWV検査がある。より確実に血管内の様子を見るには、頸動脈エコー検査が推奨される。
この検査は、プローブと呼ばれる超音波が出る機器を首に当て、頸動脈(首の左右にある太い血管)の状態をモニターに映し出して行う検査だ。
痛みもなく、被曝のリスクもないこの検査は、血管内のプラークの厚さを測定し、どれくらい血管が狭窄しているかを調べられる。
早めの検査で適切な対処を
「なぜ、頸動脈を検査のポイントにするかといいますと、首の表面に近いところに血管が流れていて検査で画像が映りやすく、しかも脳に近い重要な血管だからです」
中川医師が日立製作所やグループの45歳の社員に対し、集中的に頸動脈エコー検査を実施したのは、こんな理由からだった。業種を問わず、同世代の人々にとって、いまそこにある危機。早めの検査で適切に対処したい。
工藤さんの血管の断面図。55歳の画像では頸動脈が60%も狭窄していた(青い部分)=中川医師提供