高血圧 高血圧を退ける「減塩法」

高血圧退ける「減塩法」(5)~高血圧を放置すると将来、腎不全も

高血圧退ける「減塩法」(5)~高血圧を放置すると将来、腎不全も
予防・健康
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無症状なので病院に行かない

日本では約4300万人が高血圧と推計されています。健康診断などの診察室の測定で、収縮期血圧140以上/拡張期血圧90以上(単位・㎜Hg)が続くようなら、高血圧と診断されます。

ところが高血圧の疑いがあっても放置して通院しない人もいます。高血圧は、心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病など病気のリスクを上げますが、高血圧だけでは自覚症状に乏しいことが多いのです。無症状なのにわざわざ病院へ行く気にならない人もいるでしょう。

高血圧放置で腎機能は確実に悪くなる

「高血圧を放置すれば、たとえ心筋梗塞や脳卒中を回避できたとしても、腎機能は確実に悪くなると考えていいと思います。将来の腎不全を防ぐためにも、高血圧は放置しないようにしましょう」

こう話すのは、東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科の常喜信彦教授。慢性腎臓病や腎不全の診断・治療・研究を数多く手掛け、高血圧患者も診ています。

「ある程度、腎機能が悪くなると、その働きを元に戻すことができなくなります。そうなる前に、日頃から血圧のコントロールを心がけることが重要です」

高血圧前段階で腎臓の動脈が硬く変性も

日常生活では「血圧が少々高くても大丈夫」といわれることもありますが、実際には高血圧の前段階でも、腎臓の細い動脈が硬く変性する可能性があります。九州大学が60年以上も地域住民を対象に調査を実施している「久山町研究」によれば、腎臓の中小動脈硬化の調査では、高血圧前症(120―139/80㎜Hg)から動脈硬化が進んでいることが明らかになりました。

腎臓は毛細血管のかたまりなので、動脈硬化になるとダメージが大きくなります。高血圧と診断される前の「血圧が少々高い」段階でも、腎臓には悪影響が及んでいるのです。

「腎機能は加齢でも下がります。高血圧だけでなく、動脈硬化を進めるメタボリックシンドロームでも落ちます。早い段階で、高血圧やメタボは改善しましょう」

高血圧改善の基本は食生活の見直しだが…

改善の基本は食生活の見直しです。減塩を心がけ、暴飲暴食を控え、野菜をたっぷり食べ、運動習慣を持ちましょう。そう言葉にするのは簡単ですが実践するのはなかなか難しいものです。

実際、厚生労働省の2019年「国民健康・栄養調査」では、男女ともに4人に1人は、食習慣改善の意思について「関心はあるが改善するつもりはない」と回答しています。食塩摂取量が1日8グラム以上の男女でも、4人に1人は同様の回答でした。食習慣の改善も、減塩も、関心はあっても変えるのは難しいというのが本音です。

「まず生活習慣の見直し、それでも無理なら、降圧薬といった医療機関で処方される薬を上手に使ってください。治療薬でコントロールできれば、血管も腎臓も守ることにつながります。放置しないことが大切です」

もちろん薬頼みだけではいけません。繰り返しになりますが、「減塩」「運動」など、やるべきことをチェックリストとして掲げました(別項)。できることから始めましょう。

高血圧を退ける心構え

  • 減塩を意識する
  • 食べ過ぎ飲み過ぎは控える
  • 野菜をたっぷり(ドレッシングは控えめに)
  • 1日6500~8000歩のウオーキング
  • 睡眠時間を確保し、熟睡するようにする
  • 健診の数値が悪いときは放置せず、受診する
  • 食生活の改善で血圧が正常にならないときには治療薬を適切に活用する
解説
東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科教授
常喜 信彦
東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科教授。1990年、東邦大学医学部卒。2019年から現職。日本腎臓学会専門医・指導医・評議員、日本透析医学会専門医・指導医、日本透析医学会学術委員などを兼任し、慢性腎臓病はもとより高血圧治療にも力を注ぐ。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。