脳には変化する機能=可塑性(かそせい)がある
好みのタレントなどを応援することで、若返りや認知症の予防にもつながるかもしれない「推(お)し活」。自分もやってみたいけれど、アイドルにもK—POPスターにもスポーツ選手にも興味がなくて、肝心の“推し”をみつけられない、という声があります。
「自分は趣味がない、推しがいないからどうしたらいいだろう…そういう方もいると思います。しかし、私たちの脳には、『可塑性(かそせい)』といって、変化する機能があるんです」
こう語るのは、東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授=顔写真。脳の学習や記憶に関する機能はどのようになっているのでしょうか。
いつから何を始めてもワクワクすれば脳は成長
「脳のシナプスには、その状況に応じて変化するという特徴があります。いつから何を始めても、脳は成長するんです。自分には趣味がない、推しがいないというのは、そう決めつけているだけで、ワクワク感じることは必ずあると思います」
つまり、だれでも推し活のようなことはできるのです。
「自分は何をしているときにワクワクしているのか振り返ってみてください。そうして見えてきたもの、それはもしかしたら人やキャラクターではなく物やあるいは自然だったりするかもしれませんが、それがあなたにとっての“推し”なんです。それを意識したところから、年齢にかかわらず脳の変化が生じてくるのではないでしょうか」
ワクワクのドーパミンで脳の可塑性は高まる
続けて、瀧教授は「ワクワクすることで、幸福を感じたり、やる気が出る神経伝達物質のドーパミンが出ると言われています。ドーパミンは脳の可塑性を高めてくれます」と話します。
ドーパミンの減少はパーキンソン病や認知症にもつながると言われます。やはり、認知症予防のためにドーパミンを分泌させる「推し活」は、とても大切で、あなどれない趣味なのかもしれません。
「ロス」と「ガチ恋」には要注意
ところで推しが引退したり、グループからの卒業を発表したりするなどして心に穴があいたように感じる“ロス”という現象が突然訪れることがあります。これは脳の健康にとってマイナス面にもなるのでしょうか。
「推しという存在は、その人にとっては家族や恋人だったり、ペットに近い存在だったりします。そういう意味では推し活にはそういったロスのようなネガティブな面ももちろん伴うと思います」
このロスとともに、心を大きく揺さぶる現象として、推しのことを本気で好きになってしまう、「ガチ恋」があります。これも注意が必要だそうです。
客観的に自分を見る心持ちが大切
「好きな人、物にハマること自体はとても大切ですが、恋愛と憎悪は表裏一体。ですから、ネガティブな感情によって脳の健康を損なうことになることもあります。そこには気をつけた方がいいでしょう」
過度に落ち込むロスや、熱を入れすぎてしまうガチ恋には要注意。そして 、食費や睡眠を削ってまで「推し活」することも本末転倒です。
「せっかくの推し活をしてワクワクする気持ちが、ある一定のところを超えてしまうと、自分自身が幸せだと感じられなくなります。簡単ではないかもしれませんが、客観的に推し活のさじ加減を見られるよう心がけられるといいですね。そう考えることが、脳の可塑性にもつながると思います」
楽しんでこその推し活ライフです。