ストレス 男性更年期障害 夫が「会社に行きたくない」

夫が「会社に行きたくない」(4)ずっと同じ船(会社)に乗り続ける必要はない

夫が「会社に行きたくない」(4)ずっと同じ船(会社)に乗り続ける必要はない
コラム・体験記
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従来の日本企業はメンタル不調に対応しづらい

日々、会社で働いている人は大変なことだらけです。たとえ心を病んでも、生活のため、家族のためと辞めたくても辞められない悩みをあなたのパートナーは一人抱え込んでいるかもしれません。ヘルスプラント代表で、産業医経験が豊富な富田健太郎氏は、いきいきと働ける理想の職業人と職場の条件をこう語ります。

「セルフケアとラインケアの2つを押さえることが基本です。セルフケアは文字通り、自分のストレスに早めに気付き、自分で対処すること。対処できない場合は医療機関やカウンセリング、産業医に気軽に相談してください。ラインケアは、所属長による部下のストレスへの気づきとその対応になります」

ただし、このラインケアには問題が多くあります。「上司は適切な評価を部下に伝えられていない。部下は上司の指導を真摯(しんし)に受け止められない」といったケースがしばしば起きるのです。最近では、指導のつもりが「パワハラ」と訴えられかねません。

それを怖れて、上司と部下が腫れ物に触るような関係性になれば、正当な業務評価がされず組織全体は良くない方向に向かっていきます」。

「特に(従来の日本式経営の)メンバーシップ型企業はこの状況に陥りやすく、問題が複雑化することがよくあります」

たとえば、体調不安を抱えた社員に、主治医が午前9時から午後5時の仕事は無理なので〈10時出社なら復帰可能〉と診断書を書いた場合。

「復職してまた体調を崩すケースがあります。復職するなら9時~5時と基準を明確にし、産業医も主治医にその基準を守れる状態かを確認しなくてはいけません。そうすることで本人も意識高く復職できます」

あいまいな基準は、かえっていけないのです。

「そうした明確な基準を設けたうえで初めて、仕事ができているか、できていないかを会社は評価できるのです。治りきっていない状態での過剰な配慮や上司の特別扱いが、結果的に職場復帰の妨げになることもあります。職場には他の社員もいますから、不平不満が生じると、組織運営としても良くない事態を招きます」

産業医に気軽に相談、そして「逃げてもいい」

さらに富田氏は、管理職に対して、部下への適切な傾聴や指導法の研修も実施しています。年1回実施するだけでかなり改善し、上司も早めに産業医に相談できるようになるそうです。働きが正当に評価されると、部署全体のパフォーマンスも高まります。

ただ、会社は実際に入社してみないと、どんなストレスが待ち受けているかわかりません。良い会社に入れたと安心していても、その後の部署異動で環境が一変することもあります。

「日本の場合、一度入った会社は定年までという考え方が主流でした。ですが、私は逃げてもいいというか、病んだら会社にしがみつかなくてもいいと思っています」

「面談がきっかけで『自分を取り戻しました』『次の仕事が決まりました』という連絡をいただくこともあります。私自身も会社を退職して開業する際はかなり不安でした。退職や転職は覚悟のいることです。だからこそ、社員としてつらい中でも自身の健康を保ち、能力を発揮できるように、ぜひ産業医の存在を知っていただき活用してほしいと思います」

“心を亡くす”と書く多忙な時期だからこそ、家族で悩みを打ち明けあい、今の会社で働く意味を改めて考えてみてもいいのではないでしょうか。
 

解説
産業医、ヘルスプラント代表
富田 健太郎
産業医。ヘルスプラント代表。1999年、産業医科大学卒業後、泌尿器科医を経て、2004年、JFEエンジニアリング、2009年、三菱樹脂(現三菱ケミカル)専属産業医・統括産業医として産業医に転身。内側から従業員の健康度をアップしたいと正社員として入社し、人事部に所属。人事部員として企画・提案にも尽力した後、10年後に独立。ヘルスプラントを設立し、経験を生かして、契約企業の健康支援活動を多岐にわたって行っている。
執筆者
医療ライター
熊本 美加
東京生まれ、札幌育ち。医療ライター。性の健康カウンセラー。男性医学の父・熊本悦明の二女。大学卒業後、広告制作会社を経てフリーライターに。男女更年期、性感染症予防と啓発、性の健康についての記事を主に執筆。2019年、52歳のとき、東京・山手線の車内で心肺停止となり、救急搬送され蘇り体験をする。以来、救命救急、高次脳機能障害、リハビリについても情報発信中。著書『山手線で心配停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』(講談社)。