世代・勤続年数で「悩み」の傾向は違う
「会社に行くのが辛い…」。夫やパートナー、あるいは息子さんからそんな思いを打ち明けられた時、妻(母)はどう対応したら良いのでしょうか。まずは、「辛さ」の原因が何かを考えることが大事です。そこで、ヘルスプラント代表で産業医の富田健太郎氏に、面談する社員にはどんな傾向があるのかを世代別・勤続年数別に聞きました。
世代別・悩みの傾向
若年層
「大人」としての自立が遅いのか、自身の能力を棚上げして、指導されると「パワハラ」だと主張する。メンタルクリニックへの抵抗がないので「適応障害」の診断書が出やすい。
壮年層
体力の衰えを実感するが、どうしてよいかわからない。転職か定年まで残るのかのリミットで悩む。
定年前
業務の進化に適応できず孤立、定年再雇用による立場の喪失で心が折れる。
勤務年数別の傾向
新人
意外と頑張るが、頑張りすぎてしまい、体調が崩れるまで相談できない。一方、職場が合わなければ早々に転職する傾向あり。
職歴が浅い人
自分の能力を棚上げして、仕事が自分に向いていないと他罰的になり転職を繰り返すケースがある。
職歴が長い人
メンバーシップ雇用からジョブ型雇用への変化で、勤務すれば給料をもらえる価値観が崩壊。ついて行けず、リストラや賃金制度の変革でメンタルヘルス不調を起こす。
高齢化に伴う休・復職が課題に
富田氏は以下のように解説します。
「休・復職の面談では、メンタルの診断書が提出されるケースが7割。残る3割はフィジカル(身体的)です。工場勤務での腰痛などの筋骨格系の疾患をはじめ、高齢化にともない脳血管疾患・心疾患、悪性腫瘍も増えています」
70歳までの就業機会確保を定めた「高齢者雇用安定法の改正」や「70歳定年」が注目される中、高齢化も影を落としています。
「認知症を疑われるケースや、体力低下でつまずきや転倒によるケガなども課題になってきました。パワハラ・セクハラは一義的には社内のコンプライアンス部門が管理します。疾病に発展した場合は産業医が介入しますが、復帰後の適正配置で苦慮することが多いですね」
職場環境整備やコンプライアンス順守に注力する企業が増え、仕事のミスも上司のフォローで問題にならないことが多いのが実情。しかし、本人の思い込みで疾病化する事例もあり「問題は単純ではない」と富田氏は言います。
終身雇用の“メンバー制”が崩れ、成果重視のジョブ型に
では、会社勤めで心を病む根本的な問題はどこにあるのでしょうか?
「日本の企業はメンバーシップ型で、会社という終身雇用の船でした。できる人もできない人もいて、そこそこのお金をもらってみんなでやってきました。病気になったら成果を出せなくなるジョブ型と異なり、メンバーシップ型では病気に配慮することが普通に行われていました。かつてはそれで良かったのですが、診断書を盾に休職して手当てをもらう人も出てきました。病気なのか仕事のスキル不足なのかを分けられる職場が混乱し始めています。それが今日の旧来的なメンバーシップ型の問題です」
ところがコロナ禍でテレワークが導入され、欧米で主流のジョブ型に舵を切らざるを得なくなりました。
「テレワークになり、明確に仕事を渡されてこなかった人は、自宅でぼんやり待機するロー・パフォーマーになっていった。一方、できる人は、通勤時間や雑事が減り、仕事に集中できる。コミュ障(コミュニケーション障害)の人は、むしろアウトプット(生産性)が上がった。在宅の方が性別の壁も関係なく働けるという声もあります」
コロナ後、パートナーの仕事に対する姿勢や意欲が変わったら、それは何らかの「サイン」かもしれません。