「出社不能」の裏にホルモンバランスの乱れも
「プレゼンティーズム」という言葉があります。英語で「疾病出勤」。出社はしているけれど心身に不調をきたし、業務に支障が出ている状態のことです。そして、そのまま「出社できない状態」に至ると「アブセンティーズム」(休業/欠勤状態)になります。
この記事を読んでいる人ご自身、あるいはパートナーの男性(女性)がこのような状態の場合、更年期が要因のひとつになっているかもしれません。
筆者(熊本)は男女の更年期障害を取材してきました。プレゼンティーズムという言葉を知り、「これはもしかして、男性ホルモン=テストステロン低下が原因なのでは?」という疑問がにわかに湧きあがりました。
というのも、「朝起きられない」「疲れがとれない」「仕事に行きたくない」が男性更年期の症状を現わす“三大つぶやき”といわれ、この言葉を頻繁に口にするようになったら、自身も周囲も気にしてほしいサインだからです。これは男性だけにかぎりません。男性ホルモンだけでなく女性ホルモンも、ストレスの影響でバランスが乱れ、心身に不調をきたすことが知られています。
メンタル不調の原因はテストステロン低下だった
実際、私が取材した男性更年期障害の患者は、会社の産業医との面談でメンタルヘルス不調を訴えたところ心療内科を勧められ、抗うつ剤を処方されました。ところが、かえって症状が悪化。原因不明のまま苦しんでいましたが、その後、「男性更年期外来」にたどり着き、そこでようやくテストステロン低下が原因ということがわかりました。彼は適切な治療を受けた後、職場復帰を果たしました。
一口に「会社に行けない(行きたくない)」といっても、様々な原因があるのです。そこで、この記事では、男女の更年期と職場でのメンタルヘルス不調について、ヘルスプラント代表で産業医の富田健太郎氏に話をお聞きしました。富田氏は泌尿器科医として臨床経験を積んだのち、専属・統括産業医へ転身。産業医のなかでは珍しい経歴を生かして契約企業の健康支援活動を多岐にわたって行っています。
病気なのに「自分の能力不足」と思い込む
まず、一番知りたかった更年期と疾病出勤や休職の関係を尋ねました。
「更年期の性ホルモンの乱れが心の病に拍車をかける可能性はあるかもしれません。ですが、相談は職場環境や人間関係などの問題によるメンタルヘルス不調が圧倒的に多いです。最近はご本人が仕事のミスや成果が出せなかったとき、指摘を受けて心が折れるケースが目立ちます」
たしかに、これほど様々な報道がなされているのに、職場のパワハラは一向になくなりません。加えて、会社のリストラ・スリム化による人員不足から、残った社員たちの“働きすぎ”も問題化しています。
「明らかな過労は社会的な規制もあり減少傾向ですが、ご自身の能力不足と病気を混同する人は増加している印象です。産業医としては、まずはご本人と一緒にメンタルヘルス不調など、体調不良の原因をひもといていきます」
具体的には?
「メンタルヘルス不調なら第一選択肢は職場内での調整を試みる。次に医療的介入が必要であれば専門医を紹介し、治療に導きます。策を尽くして改善しない時に50代以上なら、もしかして…?と更年期を疑うことはあります」
女性は婦人科で治療も、男性は“弱み”話さない
女性の場合、こんなケースもあります。月経の貧血症状が辛いため在宅勤務や休職を繰り返していた女性社員と復職面談を行いました。その場で富田氏は彼女から詳しく話を聞き、月経困難症、子宮内膜症など女性特有の疾患が疑われると診断。婦人科を紹介したところ、適切な治療を受けることになり、出社できるようになりました。
しかし、男性特有の機能に由来する疾患の相談はまずないそうです。
「男性はプライドが高く、従業員が産業医に相談するハードルが高いため、自分から性機能や更年期による心身の不安は話しません」
それでも富田氏は、うつ状態の50代の男性社員から詳しく話を聞き、男性更年期障害の疑いがあると判断、信用できる男性更年期外来やメンズクリニックを紹介したこともあるそうです。
しかし、そこまでしても、ひるんで病院に行かない男性が多いのが実情だそうです。自分の弱みを隠し、我慢しがちな男性のヘルスケアは企業にとってはもちろん、妻や家族にとっても難しい課題となっています。