睡眠・不眠

良い眠りのために(4)~カフェインが睡眠の質を下げる仕組み

良い眠りのために(4)~カフェインが睡眠の質を下げる仕組み
予防・健康
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カフェインが脳の血流上昇=快眠を妨げる!?

食品やサプリメントなどに含まれる成分には、質のよい睡眠の妨げになるものや、よい睡眠の助けになるものがあります。

カフェインは日中の眠気覚ましにはよいですが、間違った摂取をすると睡眠の質を低下させることはご承知の通り。カフェインが眠気をもたらす物質、アデノシンの代わりにアデノシン受容体にくっついてしまうためです。

「アデノシンは、神経細胞が活動するとその結果生じる代謝産物です。アデノシンが脳の神経細胞に作用すると、だんだん眠くなります。アデノシンはアデノシン受容体にくっつくことで作用しますが、アデノシンの代わりにカフェインがアデノシン受容体にくっついてアデノシンをブロックしてしまうことで、睡眠を阻害しています」

そう説明するのは、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻睡眠生理学研究室の林悠教授です。林教授は、レム睡眠時中に大脳皮質の血流が日中の活動時や深いノンレム睡眠中の2倍近く増えることをマウスの研究によって発見しましたが、その血流の増加はアデノシン受容体が担っている可能性が高いことも突き止めました。

「アデノシンは眠気をもたらす以外に、血管を拡張する作用もあります。アデノシン受容体を生まれつき持っていないネズミを用意して睡眠を観察すると、レム睡眠の量自体は正常であっても、レム睡眠に入っても大脳皮質の血流はほとんど上がらないことがわかりました。そのため、おそらくこのアデノシンがレム睡眠中にたくさん分泌され、血管に作用して血管を拡張すると考えられています」

林教授は、カフェインを摂取する時間帯や量によっては脳に残留してしまい、レム睡眠中に本来起こるべき血流の上昇が妨げられてしまう可能性があるといいます。そして血流によってもたらされる物質交換(細胞に酸素や栄養をもたらし、二酸化炭素や不要物を回収すること)も十分に行われなくなると考えられます。

コーヒーは1日3杯、就寝の4時間前まで

カフェイン摂取の推奨量は、健康な成人で1日400ミリグラム(コーヒーならマグカップ3杯程度)、そして摂取時間は就寝の約4時間前まで、とされています。しかし、カフェインの効果の持続時間(半減期)や感受性(効き具合)は個人差があり、体内に残りやすい人もいます。心当たりのある人は、カフェインの摂取を少なめに、あるいは夕方以降の摂取を止めましょう。

また、睡眠を促す作用があると言われる成分に、GABA(ギャバ)があります。サプリメントだけでなく配合された菓子などもあります。脳内で抑制性神経伝達物質(興奮を鎮める)として作用し、入眠しやすくなるといいます。しかしながら、口から摂取したGABAは脳に届かないことから、睡眠への効果やその仕組みはまだ十分には解明されていません。

その一方で、脳内のGABAの効果を強める医薬品に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬があります。どちらもGABAの神経伝達を強める作用があります。これらの睡眠薬は、摂取量によってはレム睡眠を減らすものが多いといいます。それに対して、近年発売されたオレキシン受容体拮抗薬は、レム睡眠を減らさないそうです。オレキシンは脳の覚醒を促しますが、その受容体を阻害することで睡眠を促すのです。

睡眠薬を希望する場合は、どの睡眠薬にもそれぞれメリット、デメリットがあることと、今回のレム睡眠増減の情報を踏まえつつ、医師と相談の上で決めましょう。

解説
東京大学大学院理学部生物学科教授
林 悠
東京大学大学院理学部生物学科教授、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構客員教授。博士(理学)。1980年、山口県生まれ。近著に『東京大学の先生伝授 文系のためのめっちゃやさしい睡眠』。
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。