レム睡眠で血流量が増加
ヒトを含めた哺乳類の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠を交互に繰り返します。ノンレム睡眠中には成長ホルモンなどが多く分泌されることなどにより、体の回復が行われていることが知られています。そして、あまり研究が進んでいなかったレム睡眠中の脳や体への影響については、ようやくその一端がわかってきました。
「2016年に海外の研究グループが、レム睡眠は記憶の定着に重要だということを証明し、その後それを裏付けるデータがいくつか出てきました。そこで私たちは、違う視点でレム睡眠を解明するために、血流に焦点を当てて研究を進めたところ、マウスの大脳皮質のさまざまな領野の血流量が、起床時やノンレム睡眠時の2倍近く増えることがわかりました」
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻睡眠生理学研究室の林悠教授は、特殊な顕微鏡を用いて、マウスの脳内を直接観察できる技術を確立、睡眠中のマウスの脳内の毛細血管中の赤血球の流れを直接観察することに成功しました。その結果、レム睡眠中に、大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増加していることが判明しました。
「そのことから、大脳皮質の神経細胞は、レム睡眠中に活発に物質交換(酸素や栄養を送り届け、不要な二酸化炭素や老廃物を回収)を行っていることが示唆されました」
レム睡眠時に毛細血管に流入する赤血球数は、覚醒して活発に運動している時と深いノンレム睡眠中には差がなく、その一方でレム睡眠中はその2倍近く上昇したそうです。
レム睡眠時に脳をリフレッシュ
レム睡眠時に血流量が増える、ということは、脳の細胞の疲労除去や機能回復といった、脳のリフレッシュ機能の裏付けとなると考えられます。また、レム睡眠の割合が少なく脳の血流量が増えないと、活発な物質交換が行われず、脳の機能低下や老化が進み、認知症のリスクが高まる、ということも考えられます。
ちなみに健常な成人では、総睡眠時間の約80%をノンレム睡眠が、約20%をレム睡眠が占めています。そしてもちろん、睡眠時間そのものが短くなれば、レム睡眠自体も短くなります。
それを裏付けるように近年、レム睡眠時間の割合が少ない成人はアルツハイマー病などの認知症発症リスクや死亡リスクが高いという報告が相次いでいます。
例えば2017年の米国の研究発表によると、60代の健康な男女321人(平均年齢67歳、男性50%)に、自宅用のポリソムノグラフィー(睡眠時無呼吸症候群の検査)で睡眠のデータを最長19年、平均12年測る調査を行いました。その結果、レム睡眠の割合が少ない人ほど認知症のリスクが高いことがわかりました。また、深いノンレム睡眠の長さに関しては、認知症との関連性は見いだせなかったそうです。
メカニズムはまだ不明で今後の研究が待たれますが、林教授は「脳の血流は、運動をしたからといって上げられるわけではありません。ヒトの脳の大きな部分を占めている大脳皮質に十分に血液を巡らせて物質交換をするためには、レム睡眠をとることがよいだろうと考えられます」と話しています。