眼球が動き夢を見る「レム睡眠」も質を高める
質のよい睡眠をとるには、最も深い眠りである「ノンレム睡眠」をしっかりとることが重要です。さらに近年は研究が進み、浅い眠りとされてきた「レム睡眠」の役割も同様に重要であることが明らかになってきました。
睡眠時間が短く、質もよくないと言われる日本人の睡眠事情。それらを解決する方法の1つとして、入眠してすぐに現れるノンレム睡眠をしっかり深くとることがよいとされています。そしてそのためには、就寝前数時間はスマホを見るのを控えるなど、入眠を妨げない環境を整えることが重要だといわれてきました。
もう一方のレム睡眠に関しては、研究が進んでいなかったこともあり、睡眠の質にはあまり関係がないものと考えられてきました。しかし、レム睡眠研究の第一人者である東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻睡眠生理学研究室の林悠教授によると、レム睡眠も睡眠の質に大いに関係することが近年の研究でわかってきたそうです。
「ノンレム睡眠は、3つの睡眠段階、N1、N2、N3に分けられます。そのうちのN3は深い眠りに分類されています。質の良い眠りに必要な条件の一つは、このN3の深いノンレム睡眠がとれていることです。しかしそれだけでは十分でなく、加えてレム睡眠がよくとれていることも、睡眠の質に必要なことだとわかってきました」
ここでまずは、2つの睡眠のおさらいをしておきましょう。睡眠時の脳波を計ると、ヒトの睡眠はレム睡眠(REM sleep)とノンレム睡眠(non—REM sleep)に分けられます。REMとは急速眼球運動(Rapid Eye Movements)のことで、レム睡眠では眼球が素早く動き、また、脳が活発に働くことから、記憶や感情の整理(定着と忘却)が行われていると考えられています。レム睡眠中は夢を盛んに見ますが、全身の筋肉が弛緩(しかん)するため、動き出すことはありません。
睡眠の“深さ”はレム、ノンレムも同じ
一方、ノンレム睡眠は、眠りの深さによって3つの段階(N1~N3)に分けられます。N1は浅く、N2は中間の深さ、最も深いN3は徐波睡眠(Slow Wave Sleep)と呼ばれる、振幅が大きくゆっくりとした脳波の現れる睡眠です。N3では脳の多くの部分は休んでいる状態だと考えられています。
さらにN3では、代謝の調節をし、細胞の修復をしたり、子供の体の成長などに関わる成長ホルモンの分泌が盛んになります。このため、質のよい睡眠にはN3の深さのノンレム睡眠が不可欠だといわれています。
ところで、レム睡眠はノンレム睡眠のN1よりも浅い睡眠だと考えられてきましたが、そうではないことがわかってきました。
「睡眠の深さは、外からの刺激でどれくらい起こされやすいかということですが、それでいくとレム睡眠は決して浅くない。ノンレム睡眠のような段階があるかどうかはまだよくわかっていないのですが、全体としてみると、ノンレム睡眠のやや深いものと同じ深さになります」
最も深いN3のノンレム睡眠が質のよい睡眠をもたらすこと、そして覚醒に近い睡眠と一般的にはとらえられていたレム睡眠は、睡眠の質とはあまり関係のない睡眠ととらえられてきたといえます。
しかし林教授は2021年、睡眠中のマウスの脳内の毛細血管中の赤血球の流れを観察することに成功。そしてレム睡眠中に、大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増加していることを発見しました。