脳腸相関から認知症予防に取り組む
認知症の発症や進行を遅らせるための予防法が注目されている。世界保健機関(WHO)も予防のためのリスク因子を公表、高血圧や糖尿病など生活習慣病も挙げられている。これらのカギを握るのは食生活などの改善で、効果的な食と認知症予防の関係についての検証が進んでいる。
ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなり、反対にお腹の調子が悪いと憂鬱になる、という経験はないだろうか。
これは、脳と腸には自律神経などを介して密接に影響し合う「脳腸相関」があるからだ。近年、この脳と腸、腸内細菌の関連性が解き明かされてきた。
食生活と認知症について研究をしている国立長寿医療研究センターもの忘れセンターでは、日本食の食事内容と腸内細菌、認知症との関連を発表している。もの忘れ外来を受診した85人を調査対象として、その食事内容と認知症との関係について分析した。
食事は、①伝統的日本食(米飯、味噌、魚介類、緑黄色野菜、海藻類、漬物、緑茶、牛肉・豚肉)、②現代的日本食(伝統的日本食に大豆、果物、キノコを加えたもの)、③コーヒーを含む現代的日本食の3つに分類。
「コーヒーを含む現代的日本食」の人は認知症発症率低い
その結果、認知症ではない人は、認知症の人より魚介類やキノコ類、大豆類、コーヒーを摂取している割合が多く、これらの食品摂取が多いと腸内細菌の代謝産物濃度が低い傾向であることがわかった。そして、「現代的日本食」と「コーヒーを含む現代的日本食」を摂取する人は認知症の割合が低いことが判明。日本食の食事パターンは腸内細菌の代謝産物濃度や認知症と関連することが確認された。
腸内細菌とアルツハイマー病の発症・進行についても研究が進んでいる。学術雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」(2017年)では、腸内細菌がアルツハイマー病の原因の1つといわれるアミロイドβタンパク質の蓄積に関係していることが示唆された。アルツハイマー病患者の腸内細菌は健常者に比べて多様性が低く、ビフィズス菌の占有率が低いという報告を掲載している。
国内では、森永乳業がビフィズス菌の中から、加齢による認知機能の低下を抑制する可能性のある菌株「ビフィズス菌MCC1274」を特定することに成功し、認知機能改善作用について検証を行っている。MCI(軽度認知障害)の疑いのある80人を対象とし、ビフィズス菌MCC1274を16週間、摂取したことにより認知機能に対する有意な結果が得られたという。
同社基礎研究所腸内フローラ研究室の大野和也氏が説明する。
「単一のビフィズス菌生菌のみで認知機能に対して改善作用が見られました。RBANS(認知機能がどの程度低下しているかを評価する検査)では、即時記憶、視空間・構成、遅延記憶の認知領域で点数が顕著に向上し、認知機能の著しい改善が見られました」
ビフィズス菌MCC1274はサプリメントやヨーグルトとして製品化されており、研究も続けられている。
日々の生活で、日本食やビフィズス菌などの腸内細菌を増やす食事を心掛けることが認知症予防の可能性を広げてくれそうだ。