「5人に1人」認知症の7割占めるアルツハイマー病
2025年に65歳以上の高齢者のうち5人に1人、約700万人が認知症になるとの推計がある。認知症の中でも約7割を占めるのがアルツハイマー病だが、現在、根本的な治療法は見つかっていない。ならば発症や進行を遅らせる予防は、どこまで進んでいるのか。最新事情に迫った。
アルツハイマー病とは、異常なタンパク質(アミロイドβ)が15~20年かけて脳内に溜まり徐々に進行して、認知機能が低下していく病気である。
認知症治療・予防の第一人者で「アルツクリニック東京」の院長である新井平伊医師が説明する。
「アミロイドβがなぜ溜まり始めるかという根本的原因は分かっていません。正常時でも神経細胞にあるタンパク質で脳から外に流し出されるものですが、アルツハイマー病では流し出されず固まってしまい神経細胞にダメージを与えます。やがて神経細胞が死滅し、減少していくと脳の萎縮が起き、記憶に関係する伝達物質アセチルコリンが減り、物忘れが始まるのです」
今年9月に厚生労働省が製造販売の承認をした、アルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名レケンビ)が注目された。アルツハイマー病の進行を遅らせる効果が認められた初の薬となる。
従来の薬は、アセチルコリンの減少を補うもので一時的に症状は緩和したが、レカネマブは、作用の仕組みが根本的に異なる。アルツハイマー病の原因となるアミロイドβに直接働きかけ、その蓄積を減らす効果があるのだ。
新薬レカネマブで進行を2~3年遅らせられる
新井医師は「治験では、1年半の投与でアミロイドβが60%除去でき、認知機能の低下が27%抑制されました。これは期間にすれば2~3年進行を遅らせることができるということで、画期的なこと」と話す。
ただし、同薬の投与が認められるのは、認知症になる前段階のMCI(軽度認知障害)か軽度のアルツハイマー病の患者のみ。その上、薬価は、先に承認された米国での販売価格が患者1人あたり年間約390万円と高額。日本ではまだ決まっていない。
年間100万円台の価格になる可能性があるが、患者の自己負担額については一定額を超えた分が払い戻される高額療養費制度により上限がある。
レカネマブの投与対象となるかどうかは、認知症の専門医による認知機能検査や問診などを受けたあとに、脳内にアミロイドβが蓄積しているかどうかを検査して判断される。
検査も保険適用されれば費用減額に
その検査方法として「アミロイドPET」がある。認知症が発症する15~20年前より脳内に蓄積していくアミロイドβを画像で検査するものだ。現在、同検査は保険適用外で設備のある施設の数も限られるため高額。30万~60万円と、施設によって差があるが、いずれ保険適用されれば施設数も増え、自己負担額も減るはずである。
認知症にかからないようにすることは難しいが、発症を遅らせたり、進行を遅らせるためにできることはある。世界保健機関(WHO)では、認知症予防で気を付けるべき項目を公表している。
〈身体活動、栄養、アルコール、認知トレーニング、社会活動、体重、高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病、難聴など〉。適度な身体活動、適正な飲酒、バランスが取れた栄養—が重要だという。