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市販の漢方薬の正しい活用法

市販の漢方薬の正しい活用法
エイジングケア
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漫然と市販漢方薬を使うのはNG

ちょっとした症状の改善のため、一般用医薬品の漢方薬を活用することはありませんか? 風邪のひき始めに「葛根湯(かっこんとう)」、のどや咳が続くときに「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」、頻尿改善には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」、さらに、肥満症の改善のための「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」など、ドラッグストアにはさまざまな漢方薬が並びます。漢方薬に「体質改善」のイメージを持ち、長く服用している人もいるでしょう。

「漢方薬に対して、西洋薬よりもマイルドなイメージを持たれている方もいますが、漢方薬も医薬品です。効果が得られない状態で漠然と長期間服用するのはよくありません」

こう指摘するのは、千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)の中尾文香薬剤師。患者の体質に合わせた生薬を0・1グラム単位で調整するなど、より効果的な処方を実践しています。

「たとえば、『防風通聖散』を服用してもやせない、といったご相談をよく受けます。漢方薬は、診断によって体質を見極めたうえで適切に使用することが大切です」

市販の「防風通聖散」の薬には、腹部に皮下脂肪が多く便秘がち、のぼせや肩こり、動悸といった高血圧による症状を伴うなどの肥満の人向けと記載されています。

「防風通聖散は、体力があって胃腸が丈夫でよく食べる方に向いています。体力がなくて汗をかきやすい方は『防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)』が向いています」

体質や症状の「証」を意識して服用を

東洋医学では、体質や症状を「証」と称します。わかりやすくいえば、体力があって胃腸が丈夫な人は「実証(じっしょう)」、体力がなく胃腸が弱くて代謝が悪いような人は「虚証(きょしょう)」といって、正反対の診断になるのです。実証に向いた「防風通聖散」を虚証の人が服用しても、効果は得られにくいのです。

「漢方薬にも副作用はあります。肝機能障害や間質性肺炎など肺機能の低下にもつながります。長期的の服用では特に注意が必要です」

風邪のひき始めで活用されている「葛根湯」も、「実証」の人が向いています。「虚証」の人は「桂枝湯(けいしとう)」という漢方薬。鼻水やくしゃみが出る風邪のひき始めは「小青竜湯」もよいそうです。

「いずれにしても、きちんとご自身の『証』の診断を受けない状態で、長期間の漢方薬を服用するのはよくありません。診断を受けた上で、一般用医薬品も活用していただきたいと思います」

症状による使い分けも漢方薬では大切になります。風邪が長引き、こじらせてしまったときには「柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)」、発熱や吐き気などの風邪の症状が治まったのに、乾いた咳だけが続くようなときは「麦門冬湯」など、症状やその人の体質に合う漢方薬はいろいろあります。これらは数百種類ある漢方薬の一つに過ぎません。「漢方薬のことをよく知ったうえで、上手に役立ててください」と中尾薬剤師はアドバイスします。

解説
薬剤師、医学博士、漢方薬・生薬認定薬剤師
中尾 文香
千葉大学墨田漢方研究所勤務、千葉大学特任研究員。薬剤師、医学博士。漢方薬・生薬認定薬剤師、スポーツファーマシスト。順天堂大学大学院医学研究科漢方先端臨床医学修了。順天堂大学医学部附属順天堂病院薬剤部などを経て2023年から現職。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。