自覚なく更年期に苦しむ夫婦も多い
更年期には、性ホルモンのバランスが崩れて体調を崩しやすくなります。我慢できないほどの症状であれば医療機関へ行かざるをえませんが、仕事や家事、育児などに追われていると、なるべく受診は控えたいと思う人は多いようです。厚労省の2022年「更年期障害調査」では、40代の女性は約82%、50代女性は約79%が、更年期症状を自覚しても「受診してない」と回答していました。男性はさらに割合が高く40~50代の86%以上が受診していません。
「女性は更年期障害の知識があり、症状を自覚しやすいのですが、男性はそもそもご自身が更年期に陥るといったことを想定していない方が多い。ご夫婦で更年期症状に苦しんでいる方も、少なくありません」
こう話すのは、千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)の薬剤師、中尾文香さん。更年期障害のイライラやうつ、倦怠感などの未病に対して患者の体調や症状に合わせ、生薬を0.1グラム単位で調整する技術を駆使し、多くの患者を救っています。
「東洋医学は、未病のような症状に対する治療を得意としています。男女問わず、最近、体調がすぐれないと感じるときには、東洋医学がひとつの選択肢になることを多くの方々に知っていただきたいと思います」
更年期の体調不良は、自律神経の乱れやメンタル不調にもかかわり多様です。人にもよりますが、次のようなケースが起こりえます。
互いにイライラで寄り添えず…
妻が更年期でよく眠れなくなり、朝起きてもだるくてしんどい状態だとしましょう。夫もよく眠れず、やはり、つらい状態をひそかに抱えているとします。互いに「体調不良だね」と寄り添えればよいのですが、イライラが互いに増して、朝から大ゲンカに発展。体調不良がさらに悪化することもありえるのです。
「男性は更年期と気づかずに仕事のストレスや年のせいで、体調がすぐれないと考えがちです。もちろん、そのようなケースもありますが、更年期症状が起こっている人もいます。医療機関の敷居が高いと感じる方もいますが、当研究所は漢方薬に加えて鍼灸による治療も、鍼灸師が行っています。東洋医学によって元気が持続しやすいといえます」
医療機関に対する敷居の高さを払拭するため、千葉大学墨田漢方研究所は、工学部と連携してさまざまな工夫をしています。服薬指導のスペースは、カフェテリアのような待合室の空間から続いていて、遮音カーテンや防音対策による個人情報対策を実施。患者がさまざまな悩みを相談しやすい環境で、薬のみならず個人に合わせた治療をサポートする役割も、中尾さんは担っています。「1人で苦しまないようにしてほしいです」と中尾さんは言います。
夫婦で体調不良に陥り、イライラ感が増すような事態になったら、我慢せずに医療機関を受診することがなによりでしょう。そして、怒りだけでなく、気分の落ち込みや悲しみなどの気分変調、不眠、倦怠感など、未病のときに東洋医学は症状改善の一助になることも覚えておきましょう。