LDL(悪玉)とHDL(善玉)コレステロールの働き
健康診断の数値の正しい見方をご存じだろうか。動脈硬化を促進させて心筋梗塞などのリスクを上げるのがLDL(悪玉)コレステロールの高値とされている。諸悪の根源といわれるが、実はそうではなかった。また、善玉といわれるHDLコレステロールが役に立たないことがあるなど、コレステロールの新事実が次々と明らかになってきた。動脈硬化の臨床研究を長年行う東京慈恵会医科大学教授で同大学附属柏病院の吉田博病院長に“目からうろこ”の話を詳しく聞く。
そもそもコレステロールとは、脂質という脂の成分のことだ。脂質の中で中性脂肪はエネルギー源となり、コレステロールは細胞膜やステロイドホルモンなどの材料としても欠かせない。本来、生きていくための重要な栄養素である。ただし、コレステロールが余分に血液中に漂っていると、血管の壁に入り込んで動脈硬化を進める。
「LDLは、コレステロールを血中に運ぶトラックのようなもので、荷台にコレステロールを積んで運ぶようなイメージと考えてください。一方、HDLは同じようなトラックでありながら、血液中に増えすぎて血管壁にたまるコレステロールを回収し、肝臓に戻す働きをします。だから善玉と呼ばれます」
吉田病院長は、HDLの新たな機能評価法「安定同位体SIを用いた測定法」を発明し、今年1月、特許が認められた。HDLがコレステロールを取り込む能力(引き抜き能)がどの程度あるのか、血液検査で正確に調べることができる。
悪玉が小型化し血管壁に入り込む
「LDLコレステロール値が高いと、血液中に余分なコレステロールが存在することになります。HDLコレステロール値が低い、あるいは、回収能力が低いHDLだと、血管の壁に入りこんだLDLのコレステロールは蓄積し、酸化して動脈硬化が進むのです」
コレステロールが入り込んだ血管壁は膨らむ(その状態をプラークという)。そして、体内で生じる活性酸素などが反応することで酸化して(酸化LDL)、血管壁はサビたようにボロボロになっていく。プラークの一部が壊れると、それを塞ごうと血液のかたまりの血栓が生じる。血栓が積もって血管を塞ぐことで心筋梗塞などになるのだ。
「酸化LDLの起源としては、LDLが小型化したものが血管壁に入り込むことにあります。小型のLDLはビタミンE濃度が低いことも、私の研究を含め以前より明らかにされています。ビタミンE濃度が低いと、酸化されやすくなるのです」
ビタミンEは脂質に溶ける脂溶性のビタミンで、強い抗酸化作用で知られる。吉田病院長は、ビタミンE濃度を調べる検査法も開発した。
「LDLの小型化とビタミンE不足が動脈硬化を促進させることは、専門医の間では常識です。脂質異常症を正しく理解してほしいと思います」と吉田病院長は話す。
脂質異常症の診断基準
【LDLコレステロール】
140㎎/dl以上(高コレステロール血症)、120~139㎎/dl(境界域高LDLコレステロール血症)
【HDLコレステロール】
40㎎/dl未満(低HDLコレステロール血症)
【トリグリセライド(中性脂肪)】
150㎎/dl以上/空腹時採血、もしくは175㎎/dl以上/随時採血(高トリグリセライド血症)
【Non-HDLコレステロール】
170㎎/dl以上(高non-HDLコレステロール血症)、150~169㎎/dl(境界域高non-HDLコレステロール血症)
※厚生労働省「e-ヘルスネット」および日本動脈硬化学会ホームページから