低コスト、コンパクトなSaroa
小さな穴からロボットアームを差し込み、遠隔操作で医師が手術を行うロボット支援下手術。現在は「ダヴィンチ」という米国産の医療機器が普及し、幅広い分野で使用されている。一方、新たな技術革新としてのロボットも開発されつつある。そのひとつ国産の「Saroa(サロア)サージカルシステム」による世界初の大腸がん(S状結腸がん)手術が、今年7月に成功した。「ダヴィンチ」にはない触覚を有することで、将来的にはさらなる手術レベルの向上が期待されている。
「『Saroa』の発展はまだこれからです。改良を重ねる必要があるでしょう。しかし、将来的には、(1)低コストで導入しやすい、(2)コンパクトなので簡単な手術にも応用しやすいなど、メリットは大きいと思っています」
こう話すのは、東京医科歯科大学病院大腸・肛門外科の絹笠祐介教授。「Saroa」による大腸がん手術を成功させ、「Saroa」発展のためのアドバイスなどもメーカーへ行っている。
「現時点でも、『Saroa』の手術は触覚を感じるので、引っ張ったり、縫ったりするときには便利です。鼠経(そけい)ヘルニアの手術に向いているのではないかと思っています」
鼠経ヘルニアは、脚の付け根の鼠経部から腸などの一部が飛び出す。手術で網のようなメッシュを入れて、腸などが飛び出さないようにする。この手術に「Saroa」は応用しやすいと絹笠教授は話す。
鼠経ヘルニアの手術に向く
「複雑な手術は、機能が充実している『ダヴィンチ』の方がよいでしょう。鼠経ヘルニアのような簡単な手術は、現在の『Saroa』の機能でも十分対応できると思います。ただし、鼠経ヘルニアに対する手術支援ロボットが保険適用にならないと、行えませんが…」
「Saroa」の開発が進み、より使いやすくなって保険適用の範囲が広がれば、普及が進むだろう。さらに、手術支援ロボットが進化すると、AI(人工知能)を組み合わせることで、自動手術も可能となるといわれる。
「手術で臓器を縫うときには、丁寧に正確に行うことが大切になります。今はロボットの遠隔操作で縫っていますが、将来的には、縫う部分は、ロボットが自動で行ってくれるようになればと思っています」
同じ動きを正確にブレなく行えるのは、ロボットの特長の一つ。傷口や臓器の縫合は、ロボットに向いているという。では、地方都市など離れた場所と都心を結んだ形の遠隔手術などはどうか。
「手術は前後の患者さんの管理をしっかりすることで、手術成績を上げることができます。ロボットで遠隔手術が可能になっても、私自身は取り組まないと思います。遠隔操作による教育には役立つでしょう」と絹笠教授は、その可能性を展望する。
(写真:東京医科歯科大学提供)
ロボット手術の未来予測
- 現在の装置よりも、コンパクトで安価になる
- 視覚や触覚機能など操作性が高まる
- 自動縫合など、AI(人工知能)を用いたロボットが自動で行う手技が増える
- 遠隔地の患者に対し、都市部の医師が遠隔操作で手術を行うことが可能になる
- 若い医師の手術教育を遠隔操作で行うことが普通になる