ついに、触った感覚が医師の手に伝わる手術支援ロボットが登場した。今夏、世界初となるその手術が成功し、さらなる技術発展が期待されている 。これまでのロボット支援下手術とどこが異なり、患者にどのような福音となるのか。専門医に最新事情を詳しく聞く。
有名なダヴィンチには“触覚なし”
触覚ロボットの正式名称は「Saroa(サロア)サージカルシステム」という。東京工業大学と東京医科歯科大学の研究成果の実用化を目指し、2014年に創業した企業「リバーフィールド」が、今年5月、製造販売承認を取得した。
一般的な手術方法は、①メスで腹部を開けて直接手で触る開腹手術、②腹部の小さな穴からカメラや鉗子のついた細長い棒のような医療機器を入れ、その棒で先端を外科医が動かしながら行う腹腔鏡下手術、③小さな穴にロボットアームを入れて遠隔操作するロボット支援下手術「ダヴィンチ」が、現在普及している。
「これまで『ダヴィンチ』に触覚はありませんでした。それでも、画像などの技術が非常に優れているため、視覚を頼りに高度な手術を行うことはできます。とはいえ、触覚が得られると、より安全に手術を行えるようになると思います」
こう話すのは、東京医科歯科大学病院大腸・肛門外科の絹笠祐介教授。今年7月、「Saroa」による大腸がん(S状結腸がん)の世界初の手術に成功した。
経験の少ない医師でも安全性高まる
「経験を積んだ外科医は、患者さんによって組織の弱さが異なることを知っています。どの程度弱いのか。経験の少ない若い先生でも、触覚機能のあるロボットならば理解しやすいでしょう」
たとえば、みかんの皮を手でむくと簡単だが、フォークとナイフを使うと、みかんの実を傷つけてしまうなどうまく皮をむけないことがある。簡単にいうと、このみかんを手でむく感覚が開腹手術、フォークとナイフを使うのが腹腔鏡下手術だ。そして、フォークとナイフを自分では触らずに、遠隔操作によってロボットアームで皮をむくのが、ロボット支援下手術のイメージ。だが手術を行っている医師には、ロボットアームが触れる部分は触覚として伝わらない。
「Saroa」は、「ダヴィンチ」のように腹部に小さな穴を開け、ロボットアームの先端を差し込み、術者が遠隔操作する。その上、ロボットアームの先端の鉗子が、臓器などをつまんだときにかかった力(力覚)を推定し、遠隔操作する医師に触覚のように伝える仕組みを持つ。
「まだ改良の余地はかなりあります。世界初の手術が成功したことで、『Saroa』はようやくスタートラインに立ったばかり。これからさらに進化させたい」と、絹笠教授は手ごたえを感じている。
(写真:東京医科歯科大学提供)
手術の種類
開腹手術
腹部をメスで切り、外科医の手で臓器に直接触れながら行う。
腹腔鏡下手術
腹部に小さな穴を開け、先端にカメラや鉗子などがついた棒状の医療機器を挿入、モニター画面を見ながら操作し手術する。腹腔鏡の可動域が限られ、熟練技が求められる。
ロボット支援下手術「ダヴィンチ」
腹部に小さな穴を開け、ロボットアームを挿入、モニター画面を見ながら遠隔操作で手術する。アームの先端は自由自在に動き手ぶれもないが、触覚がないため、手術の種類により熟練技が必要になる。