喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の「七情」が乱れると…
食欲の秋、スポーツの秋、行楽の秋と、余暇の楽しみがめじろ押しの人もいますが、中には気分が沈んでしまう人もいるでしょう。仕事や家事、子育てや親の介護などでストレスがたまっていると、知らぬ間に心身に悪影響を及ぼします。
「東洋医学では、七情(しちじょう)が乱れると“気”が異常になって心身を傷めるとの考え方があります。七情は、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の感情のことです。“気”は生命エネルギーといった考え方です」
こう話すのは千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)所長の勝野達郎医師。今年1月、新しいコンセプトで開院された同研究所で、ストレスなどで心身にダメージを受けた人々を診ています。
「七情が乱れると気の流れが滞ったり、気が足りなくなることでさまざまな身体的な症状が現れます。しかし、西洋医学的に治療が難しいことがあるのです」
たとえば、50歳前後で、仕事で部下と上司の板挟みになったとしましょう。仕事量が多いといった物理的なストレスに加え、職場の人間関係のストレスが追い打ちをかけます。このような状態が続くことで、次のような症状にもつながります。
〈帰宅してホッとしたのもつかの間、布団に入ろうとすると心臓がドキドキして息苦しい。なかなか寝付けず寝入ったものの、深夜に目が覚めて熟睡できない〉
七情の「思」がストレスの原因
このような日々が繰り返されると、「心臓病かもしれない」とさらに不安がつのるかもしれません。医療機関を受診して検査を受けても異常なし。「血圧が少し高い程度で、特に問題はありませんよ」と医師にいわれたものの、再びその夜には動悸や息苦しさが起こる——。
「このようなパターンは、七情の『思(おもう)』が関係します。あれこれ考えすぎて心や身体の中にストレスをため込むことで気が滞り、自律神経に不調を来して、動悸や不眠など身体的な症状を引き起こします」
西洋医学では改善が難しいケースに対処するため、千葉大学は、2004年に開始した千葉大学柏の葉診療所で、本格的な漢方医療を自由診療で提供していました。その流れから、新たなコンセプトの診療所・墨田漢方研究所を開設したそうです。
「七情の思に関係した自律神経の乱れは、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)で改善することが可能です。東洋医学では、『思えばすなわち気結ぶ』といわれ、思いが強すぎて硬く結ばれてしまった気をときほぐす治療が重要になります」
「柴胡加竜骨牡蛎湯」は、あれこれと考えた結果、動揺した気を落ち着かせる作用もあります。また、漢方薬の「四逆散(しぎゃくさん)」も、ストレスによる不安な気持ちを和らげる作用があるそうです。
「責任感が強くて完璧主義の傾向がある方は、ストレスによる心身の不調を抱えやすくなります。完璧を求めず75%の出来で良しとしましょう。漢方薬は肩の力を抜くために役立ちます。楽になったらストレス発散の楽しみを見つけましょう」と勝野医師はアドバイスします。