老化が最初に現れるのは「足」
老化が現れる順番は、「第一に歯、第二に目…」などと、私は医学部の学生のときに聞かされました。しかし、実際には足ではないかと思います。
足の力というものは、歯や目とも関係が深いものです。長年スポーツドクターをやってきた経験から言うと、野球でもゴルフでもプロレスでも、ここぞというときは歯を食いしばりますが、足がしっかりしていないと力は入りません。スポーツ選手が引退するときは、ほぼ誰もが「意欲が薄れました」と口にしますが、そう感じさせているのは、やはり足腰の衰えです。
つまり、老化は足元から始まる——。人生の折り返し点を過ぎた人なら、思い当たるでしょう。たしかに歯も目も衰えます。しかし、足の衰えはもっと早くやってきます。疲れがなかなか取れなくなると、歩くのがおっくうになり、すぐ座りたくなるのです。そして、たとえば、街を歩いていて、何人もの人に抜かされるようになると、老いを痛切に感じます。
歩く速度が遅くなるということは、加齢による筋力の衰えを端的にあらわしています。歩行速度が遅くなれば移動能力が低下します。これを最近は「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と言っています。移動(locomotive)からできた言葉で、ロコモになると、行動範囲が狭くなり社会活動からも疎遠になっていきます。
ロコモを感じたら、何がなんでも歩いてください。ウオーキングを始めてください。
歩行速度、歩幅に気をつけて1日7000歩
歩幅も歩行速度に大きく影響しています。もちろん、個人差はかなりありますが、1日7000歩ほど、1歩を少なめにとって70センチ強とすると、約5キロ歩く計算になります。これに365をかけると1年で8125キロ、80年間歩いたとして14万6000キロになります。地球1周が約4万キロですから、人は一生の間に地球を4周歩くわけです。いかに足が大切か、これでわかると思います。
動物は動かなければ生きていけないわけで、そのように体のあらゆる機能がつくられています。だから、歩かないということは、確実に死に近づくことを意味します。
歩くために、最も大切な筋肉は、下半身の大腿四頭筋(太もも前面の大きな筋肉)です。これが衰えると、疲れやすくなり、歩くのが面倒になって日常の活動量が減りがちになります。
体力テストというと、大概は足の筋力チェックが中心になります。脚筋力計を用いた測定、徒手筋力計を用いた測定、イス座り立ちテストなどがありますが、その結果だけで「あなたは実年齢よりも5歳若い」と判定されても喜んではいけません。
セルフチェックをしましょう。たとえば、50歳を過ぎてスクワットで50回、シットアップで30回もできれば完全に合格です。片足立ちやカエル立ちでバランス感覚を見るのもやってみるべきです。ネットで「セルフチェック 体力」などと検索すれば、その方法とチェックシートが容易に探せます。
いちばん大切なのは、日常的に運動量が足りているかどうかです。少なくとも、前記した1日7000歩は歩くべきです。そうすれば、大腿四頭筋の衰えは緩やかになります。
毎日、時間と距離を決めて、徹底して歩くことです。極端に速く歩く必要はありません。ウオーキングは有酸素運動の一つで、こまめに歩いて脂肪を燃やし、それによって体もこころもリフレッシュすればいいのです。