忙しくて休む時間が取れない、休日も気持ちが休まらない、自分では休んでいるつもりなのに、疲れが取れない—。そんな「休息難民」に向けて、心療内科医による正しい休み方の解説書が登場した。その名も『心療内科医が教える本当の休み方』(アスコム刊、1540円)だ。
他人のニーズに応えたい気持ちから離れてみる
著者の鈴木裕介氏=写真=は、若手医療職などを対象にしたメンタルヘルスに従事する心療内科医だ。
昔に比べればだいぶ変わってきたとはいえ、いまも「疲れたから休ませてほしい」と簡単には申告しにくい雰囲気が横溢(おういつ)する日本の職場環境。そうした周囲に配慮しすぎる「過剰反応」が続くと人の心は麻痺していく—と説く著者は、「一度、他人のニーズに応えたいという気持ちから離れること」を奨励する。簡単に見えて、極めて大きな勇気を伴う行為だが、この壁を超えることで、心と身体の疲れが取れて、想像以上に前向きになることができるというのだ。
この考え方を実践するのに大切なのが「ゆらぎ」。言ってみれば、自動車のハンドルで言う「あそび」のようなものだろう。
スケジュールや物の考え方、実際の行動までを、枠に納めて固定化することは一見「しっかりした考え」にも見えるが、じつは身体にとって理想的な状態ではない。
心の疲れとるために大切な「ゆらぎ」
身体が本当に健全な状態にあるとき、その人は「ゆらぎ」の中にある、と説く著者。そして、ゆらぎを確保するうえで重要な役割を担っているのが自律神経なのだ。
自律神経というと、交感神経と副交感神経の二つを思い浮かべるが、近年新たに提唱されている「ポリヴェーガル理論」という考え方では、副交感神経の8割を占める迷走神経に「背側迷走神経」と「腹側迷走神経」の2種類があって、それに基づいた「最適な休みの取り方」が見えてきた、というのだ。
それは、「頭ではなく身体が求めていることを把握し、それに応えることで自分自身とのつながりを取り戻し、心身が安全・安心を感じられる状態にすること」だと著者。そのためには、「身体の言うことは正しい—といったん考えてみることが重要」とも。
編集を担当したアスコムの栗田亘氏は、「疲れが溜まる一方、気持ちが落ち込む、やる気が出ない—など、ありふれているけれど、深刻な悩みに答えてくれる1冊です。休むとは何か、心身が回復するとはどういうことか、これほど“目からウロコ”の本はありません」と語る。
いま疲れ切っている人も、いつかそうなってしまいそうな人も、「疲れのメカニズム」を正しく理解しておくことは重要。この本で正しい知識を身に付けておくと、安心感が高まるだろう。
ポリヴェーガル理論による自律神経の分類
- 交感神経…炎のモード
- 背側迷走神経…氷のモード
- 腹側迷走神経…リラックスモード
- 通常はこの3つのモードを行き来している(ゆらぎがある状態)
- ストレスを受け続けたときに、交感神経優位な状態や背側迷走神経優位の状態に「行きっぱなし」になることがある
- 「炎のモード」と「氷のモード」では、心身に現れる反応も、そこから抜け出す方法も異なることがある
- 腹側迷走神経が有利な状態になると、安全安心を感じられるようになる