認知症 治療・最新治療 画期的新薬「レカネマブ」で認知症は治るのか

画期的新薬「レカネマブ」で認知症は治るのか(1)~そもそもどんなクスリなのか?

画期的新薬「レカネマブ」で認知症は治るのか(1)~そもそもどんなクスリなのか?
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話題の認知症治療薬がついに日本でも承認

話題の認知症治療薬が8月21日、ついに日本でも承認されました。薬の名前は「レカネマブ」(商品名レケンビ)=写真。エーザイと米製薬大手バイオジェンが共同開発、米国では1月にFDA(米国食品医薬品局)によって承認され、すでに処方が始まっています。

日本では、11月末までに保険適用が認可され、早ければ12月から使用可能となる見通しです。欧州各国、中国も次々と承認される予定です。

現在、日本は4種の認知症治療薬(対症療法薬)が承認、使用されています。「ドネペジル」(商品名アリセプト)、「ガランタミン」(同レミニール)、「リバスチグミン」(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、「メマンチン」(同メマリー)で、いずれも症状を一定期間「柔らげる」効果があるとされますが、進行そのものを「抑制」できません。

医者の見地から述べると、認知症は発症したら、あきらめるしかありません。薬の処方はしますが、本当に効果があるかは確かめられません。個人差はありますが、必ず進行して重度になり、自分自身が誰かわらないなかで終末期を迎えます。

しかし、レカネマブはこれまでの薬以上に症状を柔らげ、進行を抑制する効果があるとされ、治験で確かめられています。ただ、効果はアルツハイマー型認知症に限られ、初期段階までです。

認知症の種類とレカネマブの効果

認知症には、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉変性症」の4種あります。全体の約6割がアルツハイマー型で、その原因とされるのが、脳内に「アミロイドベータ(Aβ)」などの異常なタンパク質が蓄積し、それが脳の神経細胞の働きを低下させることです。レカネマブは、抗体の働きで脳内に蓄積された「Aβ」に結合して、それを減らします。とくに、蓄積された「Aβ」が塊になる前の段階で除去します。

認知症の状態は、進行によって「前兆期」「初期」「中期」「末期」の4段階あります。このうち、前兆期で認知症になりかけている状態を「軽度認知障害」(MCI)と呼び、レカネマブはこのMCIに最も効果を発揮するのです。中期以上の効果は確認されていません。また、MCIであっても、「Aβ」の蓄積が認められない人には効果がありません。

公開された情報では、治験は日本を含めたアジア、北米、欧州各地の235施設で行われました。「第三相臨床試験」(最終治験)では、脳内に「Aβ」の蓄積が確認されたMCIと初期患者の1795人を対象に、レカネマブを投与するグループと偽薬を投与するグループに分けて効果が検証されました。

2週間に1回投与を繰り返し、18カ月後の認知機能の変化を比べると、レカネマブを投与したグループは偽薬のグループに比べ27%、症状の悪化を抑制できたのです。

27%はたいした数字ではないかもしれませんが、27%でも進行を「抑制できた」のは画期的なことです。というのは、この延長線上に認知症の進行を完璧に防ぐクスリを開発できる可能性が見えてきたからです。また、発症前の早い段階で投与すれば、認知症を発症しないまま寿命を全うできる可能性もあり得るからです。

脳内の「Aβ」を除去する研究は長い間行われてきました。その成果として、「アデュカヌマブ」という治療薬が開発されましたが、臨床試験の中間解析で「効果なし」とされ2019年に開発が中止されました。その後の追加解析により、米国では21年に条件付き承認されました。日本では承認が見送られたため、新薬への期待は高まっていたのです。

解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。