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慢性膵炎は「膵がん」のサインになることも

慢性膵炎は「膵がん」のサインになることも
病気・治療
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飲み過ぎから「膵炎」、そして…

お盆休みなどで飲酒の機会が増えたと思います。冷たいビールを飲みながら、家族や親族、友人と話していると、いつもより飲み過ぎてしまうこともあります。二日酔い程度で済めばいいのですが、連日の飲み過ぎから発症しやすい病気に、「膵炎(すいえん)」があります。

「多量飲酒を続けていると、膵臓の消化液・膵液が多量に分泌され、膵臓にも炎症を起こすようになります。急激な炎症による急性膵炎は痛みが激烈で救急搬送されるケースが多いです。一方、慢性膵炎は胃炎と間違われやすく、気づかないケースも珍しくはありません」

こう説明するがん・感染症センター都立駒込病院の神澤輝実名誉院長は、膵臓や胆道の専門医。膵がんと間違われやすい自己免疫性膵炎(IgG4関連疾患)の患者を数多く救っています。

「慢性膵炎は、食後に胃の辺りや背中が、重くなったり痛くなったりします。一般の方は、胃の辺りが悪いと“胃炎”と思いがちで、上部内視鏡検査を受けても原因がわからないことがあるのです」

上部内視鏡検査は、食道や胃などの状態を診ることはできますが、膵臓を調べることができません。慢性膵炎で上部内視鏡検査を受けても「異常がありません」といわれてしまうことがあるのです。しかも、女性の場合は飲酒以外に、食生活の乱れから胆石が膵管の出口を塞いでしまうことによる急性膵炎、あるいは、原因不明の慢性膵炎もあります。

膵炎の検査と膵がんリスク

「慢性膵炎は、上部内視鏡検査に、血液検査の『アミラーゼ(消化酵素)』や、『腹部超音波(エコー)検査』を組み合わせることで診断が可能です。慢性膵炎の症状が、膵がんのサインのこともあるので注意しましょう」

慢性膵炎の人はそうでない人と比べて膵がんの発症リスクは約13倍といわれています。糖尿病も膵がんリスクを上げるため、「最近、血糖値が上がり、胃の辺りが痛い」といった人は、早めに医療機関を受診した方がいいでしょう。

「膵がんは難治性の高いがんの一つですが、化学療法・放射線療法・手術による積極的な集学的治療で、予後の改善を目指しています」

神澤医師は、膵がんの診断・治療を数多く行っています。その過程で発見したのが、膵がんと間違われやすい「自己免疫性膵炎(IgG4関連疾患)」という病気でした。膵がんのようにしこりを作る病気ですが、良性の病気でステロイド治療がよく効くため、膵がんとの見極めや治療法の確立などに尽力しています。その技術力により、今年4月、がん・感染症センター都立駒込病院にIgG4関連疾患センターを設立し、センター長も務めています。

IgG4関連疾患は、多くの人がまだよく知らない病気であることに加え、ステロイド減量後に再び炎症が起こる難治性のIgG4関連疾患もあるため、新しい治療法の開発にも神澤医師は力を注いでいます。

「膵臓や胆道に関わる病気は、難治性の高いものが少なくありません。自覚症状が間違われやすい病気があることや、適切な診断と治療を受ける重要性について、ご理解いただきたいと思います」

解説
がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
神澤 輝実
東京都立病院機構がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長・IgG4関連疾患センター長。医学博士。1982年、弘前大学医学部卒。2019年4月に都立駒込病院院長に就任。2023年から現職。消化器内科の肝胆膵領域の専門医で、臨床研究を数多く行い、がんと間違われやすいIgG4関連疾患の提唱者。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。