いつの間にか骨折の恐れ!?
暑さで頭がボーっとしていると、腰掛けようとした椅子から落ちて尻もちをつくようなことも起こる。お尻から床にドンと落ちて「アッ、痛い」と苦笑い程度で済めばよいが、激痛で動けなくなることも。骨粗鬆(そしょう)症の人は、ちょっとした尻もちで、骨粗鬆症性脊椎椎体骨折(せきついついたいこっせつ)、通称・背骨の「圧迫骨折」を起こしやすいのだ。
「一般的にいわれる骨粗鬆症で骨がスカスカになった状態は、顕微鏡で見ると骨の網の目のように張り巡らされた梁(はり)が細くなっています。梁が細くなった部分は、わずかな衝撃でも壊れます。尻もちなどの軽い衝撃でも折れてしまうのです」
こう説明するのは、NTT東日本関東病院整形外科の山田高嗣部長。脊椎・脊髄病の手術を得意として、同病院の脊椎・脊髄病センター長を兼務し、圧迫骨折の患者を数多く救っている。
「骨の梁が数本折れても、X線検査ではわかりません。それが繰り返されて変形していくのが、『いつの間にか骨折』です。一方、尻もちの衝撃で激痛が走り、一気に骨の梁が広範囲で壊れてしまう圧迫骨折もあります」
背骨の「圧迫骨折」に要注意
重い荷物などを持ったときなどに、スカスカな背骨の網目のような骨の梁が数本折れて骨折しても、痛みはそれほど激しくないという。これが「いつの間にか骨折」。一方、尻もちをつくなどして、網目のような骨梁構造が広範囲に壊れ、潰れたようになるのが「圧迫骨折」。耐え難い激痛に見舞われ、救急搬送されることも珍しくはない。
「圧迫骨折になって初めて、ご自身の骨のもろさを痛感する方もいます。圧迫骨折は1カ所にとどまることなく、連鎖することがあるからです」
腰骨の腰椎は5つの骨で成り立ち、その上にある胸椎は12個の骨が連なっている。骨粗鬆症ではひとつの骨がもろくなるだけでなく、背骨全てがスカスカになっている。尻もちをついたときに、ひとつの骨の圧迫骨折だけでなく、2つ、3つと、同時に背骨が潰れてしまうようなことも起こりえる。
「圧迫骨折の治療は骨折の程度にもより、入院手術が必要になることもあります。また、骨がもろすぎると、治療そのものが困難を極める事態も招きます」
もろい骨は簡単に壊れるため、圧迫骨折の外科的な治療に耐えにくい状態もあるという。結果として、治療が長引くことに。そうなる前に、骨粗鬆症を放置しないことが大切だ。
「健康診断などで骨密度が低いといわれ、腰痛などを抱えている人は、早めに整形外科を受診し、原因を突き止めていただきたいと思います」と山田医師は早期の治療を強く勧めている。
圧迫骨折(脊椎椎体骨折)の基本的な治療法
- 骨折した部分をコルセットなどで固定し、鎮痛剤で痛みを取り除く
- 骨粗鬆症の治療で骨を強くする
- リハビリテーションによる運動療法で、背中や脚の筋肉を鍛えて転倒を防ぐ
- カルシウムや、その吸収を助けるビタミンDなどを意識した食事療法
- 上記の治療を行っても圧迫骨折が治らない場合は、手術が選択肢となる
- 圧迫骨折した骨に、背中から針を刺して風船のような医療機器で骨折部に空間を作り、その中に骨セメントを充填する「経皮的椎体形成術/BKP」を実施
- 圧迫骨折した骨の、頭側の骨と尾側の骨にスクリューを挿入、スクリューをロッドで連結し固定することで骨折部を安定化する「後方固定術」を実施
※山田医師の取材を基に作成