認知症予防に効果的なガンマ波サウンドテレビ
認知症や、その7割を占めるアルツハイマー病の治療は、大きく分けて2つある。薬物治療と非薬物治療だ。薬物治療は、新薬レカネマブがFDA(米国食品医薬品局)で正式に承認され、今後さらに研究の進展が期待されている。
もう一方の非薬物治療においても研究が進んでいる。薬物以外の治療はとくに予防にもつながる可能性の高いものが多いので、アルツハイマー病の大きな原因の1つであるアミロイドベータ(Aβ)が脳に蓄積し始める40代以上の人は、ぜひ関心をもってほしい。
非薬物療法では、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感それぞれを安全な方法で積極的に刺激することで脳の働きを活性化しようとするものが多い。中でも近年は聴覚に注目が集まっている。WHO(世界保健機関)が発表した、認知症のリスク低減のための12の項目に「難聴の管理」がある。また、2020年に医学雑誌『ランセット』の委員会が発表した報告書によると、ミドルエイジ(45~65歳)の難聴は認知症発症のリスクを8%増やすという。
そうした中、テレビの音を「ガンマ波サウンド」に変調し、日常生活で聴くことができるテレビスピーカーが先日発表された。ガンマ波とは30ヘルツ以上の周波数の脳波のことを指すが、近年40ヘルツの周波数の音を聴くと、認知機能の活性化につながるという研究が話題となり、今回の製品化につながったという。
脳波と認知機能:40ヘルツ音の効果
40ヘルツの音を聞くとなぜ認知機能を活性化する可能性があるのか、脳波がなぜ認知機能と関係しているのか。臨床医として長年認知症予防に取り組んできた、杏林大学名誉教授(精神神経学)の古賀良彦医師に聞いた。
「脳波は心電図と同様に、脳が活動するときに生じる電気的な変化を詳細に記録するものです。脳波は主として周波数の異なる5種の波によって構成されています」
周波数とは、1秒間に繰り返す波の数のこと。1秒に40回の波が現れるのが周波数40ヘルツの脳波だ。5種の脳波とは、アルファ波(8~13ヘルツ)、ベータ波(14~30ヘルツ)、シータ波(4~7ヘルツ)、デルタ波(4ヘルツ未満)、ガンマ波(30ヘルツ以上)である。
このうちアルファ波は気持ちがリラックスしたとき豊富に出現する。一方、緊張した時にはベータ波が増加する傾向がみられる。眠中にはシータ波やデルタ波のような、周波数が遅い波が大量に出現する。40ヘルツのガンマ波は脳が高次の認知や判断、行動を遂行する際に観察される。
たとえば、信号の色を見分けて、自動車のアクセルやブレーキを的確に操作するというような行動を行うときには、40ヘルツガンマ波が出現する。
認知症になるとその初期から、脳が高度の情報をきちんと処理する時に現れる40ヘルツのガンマ波が少なくなる。それならば40ヘルツの音を聴かせることによって、40ヘルツのガンマ波の出現を促し、認知機能の衰えを防ごうという研究が、近年行われるようになった。
「とくに米国マサチューセッツ工科大のツァイ教授が2018年くらいから始めた研究は、非常にきれいなデータが出たため、注目を集めました。アルツハイマー病の状態にしたマウスに40ヘルツの音刺激をある期間与えてみると、2つのことがわかりました。1つはAβが増えにくくなったこと、そしてもう1つは、40ヘルツのガンマ波が出現するようになったことです」
認知症リスクを低減するための12項目
- 身体活動
- 禁煙
- 栄養
- 適正飲酒
- 認知トレーニング
- 社会活動
- 体重の管理
- 高血圧の管理
- 糖尿病の管理
- 脂質異常症の管理
- うつ病への対応
- 難聴の管理
(WHO、2019年)