認知症 治療・最新治療 「新薬」と「音」で認知症治療

「新薬」と「音」で認知症治療(3)~認知症の“原因”を検査する方法が保険適用に

「新薬」と「音」で認知症治療(3)~認知症の“原因”を検査する方法が保険適用に
病気・治療
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アルツハイマー病の原因“蓄積度”を画像化

FDA(米国食品医薬品局)に正式承認された、アルツハイマー病の新薬レカネマブが、日本でも近く保険適用になる見通し。そのときに同時に保険適用が検討される見込みなのが、アミロイドPET(陽電子放出断層撮影)検査だ。

PET検査はがんの画像検査として知られているが、アミロイドPETはアルツハイマー病の原因であるアミロイドベータ(Aβ=老人斑)の脳内の蓄積度を画像化する。そのため、異常蓄積が確認できれば、MCI(軽度認知障害)であれ軽度認知症レベルであれ、アルツハイマー病によるものと確定できる。

がんのPET検査の場合は、がん細胞が正常の細胞に比べて多くのブドウ糖を取り込むという性質を利用して、FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)を体内に投与し撮影する。アルツハイマー病検査の場合は、Aβに結合する放射性物質を投与して頭部を撮影する。

がんの検査では医師の指示があれば保険が適用されるが、アミロイドPETは現時点では自費診療となり、数十万円はかかる。しかもアミロイドPET検査を実施している施設は全国でも十数カ所程度だ。脳脊髄液検査は保険適用だが、侵襲性が高い等の難点も。

2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を採用した「健脳ドック」を始めたアルツクリニック東京院長の新井平伊医師は、発症前の段階でAβが脳内に蓄積しているかどうかを確認するためには最も信頼できる検査だという。

「Aβが溜まっているかどうかを診る検査には、アミロイドPET検査と脳脊髄液検査があります。どちらかでAβがたまっていることを確認した上で、レカネマブを使用する流れになります。МCIや軽度認知症であっても、Aβの蓄積が認められない人は対象外です。そのため、どちらの検査も保険適用になる可能性があります」

できるだけ早く治療開始を

その他、レカネマブの副作用である脳浮腫や脳出血があるかどうかを確認するために、MRI(磁気共鳴画像)検査も必須。「とくに最初の4カ月はしっかり診る必要があります」

残念ながら、画期的な薬であるレカネマブも、アルツハイマー病の長期的な進行はまだ止められない。しかし薬物治療、そして両輪である非薬物治療をできるだけ早期に行うことで、患者本人と家族のQOL(生活の質)は大きく変わる。

「一番大事なのは、アルツハイマー病は進行性の病気だということです。それを考えると、現在保険適用されている薬もそうですが、副作用があるから…という考え方は、一面では正しいと思いますが、それは例えるなら、飛行機は落ちる可能性があるから乗らない方がいいというのと同じように思います。医者は落ちないように、いかに飛行機を安全に、患者さんの人生をよりよいところに届けるか、という役目を担っています」

とくに、アリセプト(一般名ドネペジル)を飲むと興奮して落ち着きがなくなる患者は一定数いる。その場合、実は薬だけが原因ではなく、患者の家族の背景(人間関係)や環境などの影響も大きく、それを薬が後押ししてしまっている可能性もあるそうだ。

「だから、飲むか飲まないか、ではなく、どうやって患者さんを治療しご家族を安心させたらいいのか、考えながら薬を使い、薬以外の治療を考えていくのです」

解説
精神科医師、アルツクリニック東京院長
新井 平伊
アルツクリニック東京(東京都千代田区)院長、順天堂大学医学部名誉教授。1953年生まれ。1978年、順天堂大学卒業。1999年、国内唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、アルツクリニック東京を開設し院長に就任。日本老年精神医学会専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。