2つの新薬は疾患の原因アミロイドベータを減らす
現在、日本で保険適用されている認知症(アルツハイマー病)薬4種類のうち、ドネペジル(商品名アリセプト)など3種類は、神経伝達物質のアセチルコリンを増やす薬だ。これらはコリンエステラーゼ阻害薬といい、記憶に大きく関与するアセチルコリンが減るのを抑え、健常に近づけるのが目的だ。だが病気の発症や進行は止められない、対症療法である。
これに対して、アデュカヌマブとレカネマブは「疾患修飾薬」と呼ばれる。疾患の原因に働きかけて進行を抑える薬のことで、これまで原因であると考えられてきたアミロイドベータ(Aβ)を減らす薬であるためだ。アルツクリニック東京院長の新井平伊医師は、新薬をこう説明する。
「脳内に老人斑(Aβタンパク)が20年以上かけて溜まると、神経細胞内のタウタンパクを巻き込んで細胞内の物質輸送など重要な機能の低下が起こり、神経細胞のダメージが進みます。神経細胞の働きが悪くなると、脳内の情報伝達物質アセチルコリンが減ってくる、というのがごく簡単なアルツハイマー病進行の流れですが、新薬が画期的なのは最も上流の老人斑を減らすからです」
アデュカヌマブとレカネマブの違いと効果
今回の新薬レカネマブとアデュカヌマブは何が違うのだろうか。
Aβは42個のアミノ酸からなる。これらがだんだん固まって線維化し、老人斑になる。1個だったものが2個、2個が4個というように、だんだん固まって最終的には繊維化し、とぐろを巻いてアミロイド線維と呼ばれるものになる。それがさらに固まると老人斑に。
健常であればそうなる前に、免疫の働きで脳外に排出されるが、老化や環境要因等によってその働きが鈍り、老人斑が溜まっていく。そこで新薬は、Aβを標的にした抗体医薬品として開発された。簡単にいうと、Aβを抗原とみなす抗体を作ってピンポイントで排除する、という仕組みだ。そして2つの新薬の違いは、Aβのどの部位を標的にしているか、ということだ。
「アデュカヌマブはアミロイド線維に抗体としてくっつくのに対し、レカネマブはプロトフィブリルという、線維化前のもう少し短いものにくっつきます。そして、プロトフィブリルのほうが神経細胞に対しての毒作用が強いので、メカニズムとしてもレカネマブのほうがより効果が見込める、と考えられます」
研究結果も、アデュカヌマブの場合は有意性がそれほどはっきりとは証明されていなかったが、レカネマブの場合はプラセボとの統計的有意差がはっきりしている(18カ月後に27%の悪化抑制)。気になるのは副作用だ。新薬のどちらも脳浮腫や脳出血のリスクはある。
「どちらも認められた段階で中止して様子を見ると、回復することが確認されています。レカネマブはアデュカヌマブよりは比率は少なかったので、副作用の点でもレカネマブのほうがより安全性はあります」
これまでのアルツハイマー病薬は経口薬だが、アデュカヌマブは4週間に1回、レカネマブは2週間に1回、点滴で投与する。費用は、米国では年間で約350万円と設定されている。
この治療薬を使える対象者だが、臨床試験では軽度のアルツハイマー病患者とМCI(軽度認知障害)が被験者だった。保険適用になるかどうか注目されるところである。