認知症 治療・最新治療 おすすめ記事 「新薬」と「音」で認知症治療

「新薬」と「音」で認知症治療(1)~アルツハイマー病はどのように起きるのか?

「新薬」と「音」で認知症治療(1)~アルツハイマー病はどのように起きるのか?
病気・治療
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認知症治療の最新動向と新薬

米国で条件付き承認されたアルツハイマー病の新薬アデュカヌマブに続き、新薬レカネマブが々正式承認された。日本でも今後の保険適用が期待される。また、聴覚に着目した予防法の研究が進んできた。認知症治療の最新事情を報告する。

「年をとれば誰でも認知症になる。老化だから仕方がない」と思いがちだが、それは間違いだ。認知症は脳の「病変」によって引き起こされる症状で、病変の大きなリスクの一つが加齢であるものの、脳に器質的な変化が起こっている。これについては後で述べる。

「もの忘れ」という代表的な症状にも違いがあり、加齢によるもの忘れは「記憶したものを思い出せない」のに対して、認知症では「記憶すること自体が難しい」。人との約束を忘れたとき、忘れた自覚があれば対処できるが、約束した覚えそのものがないと、トラブルを引き起こしやすくなる。進行すると、自身の生活や健康も、家族の生活も脅かされていく。

発症してしまった認知症を完治する治療法はまだない。現在では、進行を緩やかにする薬物療法や、生活問題・社会的問題・精神的な問題を緩和し、QOL(生活の質)を元に近づけるための非薬物療法を組み合わせた治療が行われている。そこに、2021年、条件付きながら米国で承認されたアデュカヌマブ、そして今年1月に迅速承認され今月正式に承認されたレカネマブが登場、脳の病変の治療法が大きく変わってきている。

アルツハイマー病薬のメカニズムと違い

従来の認知症薬(アルツハイマー病薬)と、これら新薬の違いを理解するために、アルツハイマー病のメカニズムをざっくり知る必要がある。アルツクリニック東京院長で順天堂大学名誉教授の新井平伊医師が語る。

認知症の約7割を占めるアルツハイマー病は、脳内に老人斑(アミロイドベータタンパク)というものが20年以上かけて溜まってきます。そうすると、神経細胞内のタウタンパクというものを巻き込んで細胞内の物質輸送など重要な機能の低下が起こり、神経細胞のダメージが進みます

「神経細胞の働きが悪くなると脳内の情報伝達物質で記憶に最も関わるアセチルコリンが減ってくることで、症状が出てくるし、神経細胞の働きが悪くなると減ってきて脳が萎縮してくる、という流れになります」

そのアセチルコリンを減らさないようにして元に戻そう、というのが、現在多くの患者に処方されているドネペジル(商品名アリセプト)だ。

「アルツハイマー病のメカニズムの下流のほうではありますが、それでも減ったアセチルコリンが戻るので、それなりの効果はあります。また、少し意欲が出てきたり、意識がはっきりしてきたり、話をするようになったりなど、記憶だけではない効果はある。そのようなエビデンスがあって、薬として世界中で承認されているのです」

5人に1人は認知症になる

2015年発表「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、65歳以上の認知症患者数は、2025年には約675万人(有病率18.5%と5.4人に1人程度が認知症になると予測。2013年の厚生労働省の報告書では、80代後半で、男性35%、女性44%、95歳以上では男性51%、女性84%が認知症としている。

解説
精神科医師、アルツクリニック東京院長
新井 平伊
アルツクリニック東京(東京都千代田区)院長、順天堂大学医学部名誉教授。1953年生まれ。1978年、順天堂大学卒業。1999年、国内唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、アルツクリニック東京を開設し院長に就任。日本老年精神医学会専門医・指導医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医。
執筆者
医療ジャーナリスト
石井 悦子
医療ライター、編集者。1991年、明治大学文学部卒業。ビジネス書・実用書系出版社編集部勤務を経てフリーランスに。「夕刊フジ」「週刊朝日」等で医療・健康系の記事を担当。多くの医師から指導を受け、現在に至る。新聞、週刊誌、ムック、単行本、ウェブでの執筆多数。興味のある分野は微生物・発酵。そのつながりで、趣味は腸活、ガーデニングの土作り、製パン。