日本人のビタミンD不足、驚愕の現実
骨を丈夫にし、感染症やがん、アレルギーなどの病気を退けるために役立つ「ビタミンD」。食品に加えて日光を浴びるだけでも体内で生成されるが、なんと98%の日本人がビタミンD不足に陥っていることがわかった。研究者の東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座の越智小枝教授に詳しく話を聞いた。
ビタミンDは、キノコ類やサケなどの魚類に多く含まれる。また、1日20分程度の日光浴で体内でも生成される。つまり、1日3回バランスのよい食事を心がけ、仕事などで外出して日差しを浴びれば、「必要なビタミンDは満たされるはず」と思うだろう。ところがその考えは間違っていた。
今年6月、越智教授らがリリースした論文では、都会に住む健康な日本人の98%が、日本代謝内分泌学会・日本整形学会が提唱するビタミンD基準濃度に達していなかった。
「従来の研究では、子どもやアスリートのビタミンD不足の報告はありました。でも、健康な人を対象としたビタミンDの報告はありませんでした。私たちは、健康診断を受けた人を対象にビタミンDの状態を調べることにしたのです」
欧州との違い、骨粗鬆リスクとの闘い
こう話す越智教授らは、島津製作所が新たに開発し、一度に多数の解析が可能な「液体クロマトグラフィー・質量分析法(LCーMS/MS)システム」を活用。2019年4月から20年3月までに、都内で健康診断を受けた5518人を対象に調査を実施した。すると98%の人でビタミンDが不足していることが判明したのだ。
「欧米諸国に比べ日本人は、キノコ類やサケ類などビタミンD含有量の高い食品を食べる機会が多い。しかし、研究結果では、植物由来のビタミンD2は、ほぼ検出されませんでした」
ビタミンDには、キノコ類に含まれるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と、魚類などに含まれ人間の体内でも生成されるビタミンD3(コレカルシフェロール)がある。越智教授らの研究では、ビタミンD2はほとんど検出されず、ビタミンD3も不足していることがわかった。
「欧州は秋から冬にかけて日照時間が短くなるため、日光浴だけではビタミンD不足に陥りがちです。骨粗鬆(そしょう)症のリスク低減のため、食品にビタミンDを添加し、成果を上げている国もあります」
日本は、骨粗鬆症の推計患者数は約1280万人といわれるが、食品にビタミンDを添加するような国策はない。予防は自分自身で、運動習慣に加え、カルシウムとビタミンDを意識することが大切になる。
「キノコ類やサケ類などの食品を毎日とるのが難しいときには、サプリメントも一考だと思います」と越智教授はアドバイスする。
「98%の日本人がビタミンD不足」研究結果概要
- 女性5~27ng/mL、男性7~30ng/mL(全体6~29ng/mL)。日本代謝内分泌学会・日本整形外科学会が提唱するビタミン基準濃度(<30ng/mL)に98%が達していないことが判明
- 測定されたビタミンDのほとんどが動物あるいは日光由来のビタミンD3で、シイタケなどの植物由来のビタミンD2はほぼ検出されず
(東京都内で健康診断を受けた5518人が対象)