寿命が伸びるサーチュイン遺伝子
「寿命が延びる遺伝子の存在って知っていますか?」
銀座アイグラッドクリニックの乾雅人院長は問いかける
老化を制御し、長寿にはたらきかけることで“長寿遺伝子”とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」の存在だ。
「これを見つけたことが、遺伝学の大きな貢献につながったと思います。ウェルナー遺伝子のように短命になる寿命遺伝子があるのなら、寿命が伸びる遺伝子はないの? と。ただ、人間で検証すると結果が出るまでに時間がかかりすぎてしまうため、寿命が数週間程度の線虫や酵母で、スクリーニング、絞り込み検索のように検証していきます。実際、線虫のある遺伝子をなくしたら、寿命が2倍に伸びることが確認されています」
これは、人間でいうと「IGF—1R」というインスリン様成長因子1の受容体(Receptor)に相当するものだと乾院長は言う。すなわち、IGF—1(インスリン様成長因子)による細胞への刺激が減弱すればするほど、人間という種でも寿命が延びる可能性があると認識されたのである。
「ただ、さすがにこの遺伝子をなくすということは人間ではできません。だったら、何かを活性化させることで寿命を伸ばすことができないものかと。それが通称、長寿遺伝子、『サーチュイン遺伝子』なんです。現在、サーチュイン遺伝子に関する研究は、世界中が注目している領域の一つです。その検証が日進月歩で進んでいます」
サーチュイン遺伝子を活性化させる「NMN」よりすごい「TND1128」
昨今、長寿サプリとして注目を集める「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」も、その内の一つ。ビタミンB3の系統で、母乳や枝豆、ブロッコリーなどに含まれる成分です。
NMNに期待が高まる中で、乾院長は別の物質の可能性も模索している。そのひとつが、「5デアザフラビン(TND1128)」という物質だ。ビタミンB2を改良したものだそう。
「もともと、5デアザフラビン自体は、数十年前から存在が知られていました。NMN同様、ミトコンドリアの活性化や、サーチュイン遺伝子の活性化が主機能です。昨今のNMNブームを契機に、崇城大学の永松朝文教授が新規に合成に成功し、そのうちの一種をTND1128と命名しました。ミトコンドリア活性はNMNの数十倍と知られています」
乾院長が続ける。
「しかしながら、このような素晴らしいものが、薬剤としての承認を得るまでには、何年もの歳月と数百億円の財源が必要です。加えて、特許の関係上、製薬会社が薬剤の承認を得た次の瞬間に、ライバル企業がジェネリックを製造することが可能な状態です。そうであるならば、営利企業である製薬会社が動くとは思えません。一介の医師が、本当に素晴らしいものであるにも関わらず、それが困っている患者の方の元に届かないことが社会問題だと考えています」
サーチュイン遺伝子を活性化させるためのさらなる研究、そしてより手軽にそれが多くの人に行き渡るようにするための環境づくり。それらがこれからの老化治療への大きなポイントであることは間違いない。
(取材・太田サトル)