心臓・心疾患 更年期障害

更年期症状に似た「心房細動」に気をつけましょう

更年期症状に似た「心房細動」に気をつけましょう
エイジングケア
文字サイズ

動悸や息切れ、更年期ではなく心房細動かも?

急に走ったり階段を駆け上ると、心臓がドキドキして息が苦しくなるようなことが起こります。でも、横断歩道などで立ち止まっているときにも、同様の症状が出たら「あれ?」と思うでしょう。更年期の症状では、動悸や息切れが起こりやすいのですが、心臓の病気でも起こります。そのひとつが「心房細動」です。

「心臓は、一定のリズムで拍動を繰り返し、全身に血液を送っています。心拍は電気信号によって起こりますが、電気信号が乱れると心拍も乱れます。心房細動では心房の電気信号が乱れ、心拍が上手くいかなるのです。血液が心臓内に停滞し、全身への血液供給量が減るため、動悸や息切れなどの症状を引き起こすのです」

こう説明するのは、東邦大学医療センター大森病院循環器センター(心臓血管外科)の藤井毅郎主任教授。心房細動の治療を数多く行う一方、心筋梗塞や弁膜症の治療も得意としています。

「心房細動は、必ずしも動悸や息切れの症状を自覚できるわけではありません。しかし、動悸や息切れを起こす心臓病に、心房細動があることを覚えておいておきましょう。なぜなら、心房細動は心原性脳塞栓症、すなわち脳梗塞の原因になるからです」

心臓が電気信号で拍動すると、血液は左心房から左心室、大動脈へと送られて全身に供給されます。心房細動では、左心房が1分間に400回以上も震えるような状態に陥り、左心房のポンプ機能が一次的に止まり、左心室への血液の流れが止まるのです。この“細動”と“血液の停滞”が、動悸と息切れの症状につながります。

心房細動から脳梗塞も

「心房細動は、一過性ですぐに正常な状態に戻りやすく、命に別条があるような病気ではありません。しかし、心房で血液が停滞することで血栓が生じ、血流が再開したときに脳へと運ばれて脳梗塞の原因になります」

脳梗塞は動脈が血栓で詰まり血流が止まることで、脳の神経細胞が死滅してゆきます。脳の中や首の動脈で生じる血栓よりも、心房細動でできる血栓の方が大きく、脳梗塞が重症化しやすいといわれています。心房細動は放置しないことが大切です。近年、ウェアラブル端末(腕などに身に着けられる情報端末)で、無自覚でも就寝中でも脈を測定することで、心房細動などの心臓病が見つけやすくなっています。

「心房細動は治療によって治る病気です。息切れや動悸が続く、あるいは、脈がおかしいようならば、早めに医療機関を受診しましょう」

心房細動の治療では、乱れた電気信号を正常に戻す「カテーテルアブレーション」を行い、2022年4月保険適用になった「胸腔鏡下外科的左心耳閉鎖術」によって心房内に生じやすい血栓を防ぐことができます。左心耳(さしんじ)は、左心房についた耳のような袋で、心房細動の血栓は左心耳に生じやすいのです。電気信号を正常化し、左心耳に血栓ができにくくすることで、心房細動による心源性脳梗塞を予防することが可能です。

「動悸や息切れがしたときに、ご自身で脈を測ってみてください。親指のつけ根に指を当てると脈をとることができます。安静時の正常な脈は1分間に60~100回です。数が多く過ぎても、少なすぎてもよくありません。異常を見逃さないようにしましょう」

解説
心臓血管外科医師
藤井 毅郎
東邦大学医療センター大森病院循環器センター(心臓血管外科)診療部長、東邦大学医学部外科学講座心臓血管外科学分野主任教授。1990年、東邦大学医学部卒。2022年より現職。虚血性心疾患・弁膜症・大動脈疾患の手術を数多く行っている。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。