家族や親しい人が「がん」になったら?
日本人の約2人に1人が、がんと診断される時代。自身だけでなく、家族や親しい人が、いつがんになってもおかしくない。そのときどう向き合い、どう見守ればいいのか。がん緩和ケア内科医による講演録『「幸せな生」を支えるための10の講義』(中央法規刊、1980円)が大いに参考になる。
ステージ4の家族・知人にどう接するか
著者は、プラスケア代表理事で川崎市立井田病院腫瘍内科部長の西智弘医師。これまで多くのがん患者と向き合い、抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療に関わってきた。
そもそも「がんになる」とは、どういうことなのか。ステージ分類の進行度によっても対応も大きく異なってくる。たとえばステージ4と診断された人に、医師はどう説明するのか、それに周囲はどう応じていけばいいのか。
導入部から、「がんによる痛みとは」「がんをもちながらこの社会で生きていく課題と対応とは」「がんによる死を迎えていくこととは」といったテーマが、やさしい目線による10回分の講義をベースに詳述している。
人の死の前に感じる4つの“違和感”
たとえば、著者がSNS上で行った、「みなさんが人の死の前に感じた、ちょっとした違和感について教えてください」というアンケート結果は、主に4つに分類されたという。
①匂いが変わる系
圧倒的に多かった意見だという。「飴を煮詰めたような甘い匂い」「線香の匂い」を感じることがある。
②空気が変わる系
「いつものように横になっているが『薄く』感じてしまう」「輪郭がぼやけて見える」など。
③性格が変わる系
急に「いい人」になる、家族に冷たかった人がさみしそうに家族に手を振る、後悔したこと、幸せだったことなどを話し始めるなど。
④容貌が変わる系
目線がなんとなく合わない、頬骨が出てくる、血色が悪い(白かったり黄色かったり)など。
数日内の余命予測法も開発
これらの違和感も含め、数日内の余命を予測する方法も開発されているという。だが、余命が予測できることと、伝えることの善しあしは別問題と著者は語る。患者にとってそれを伝えることがどういう意味をもつのか、よく考えた上でがん患者の気持ちに寄り添うことが重要と説く。
西医師は本書の狙いをこう語る。
「この10年くらい病院や大学などで講演してきた内容を、10の講義形式でまとめました。医療福祉者向けですが、非医療者にも読んでほしい。特に第10講義の『1000年生きられる時代なら』は、自分が生きることの意味を考え、ひいては周囲の方々の死生観も感じられるようになる仕掛けになっています。ぜひ多くの方にお読みいただきたいです」
「3種類の死」という概念について
死には、以下の3種類が存在する
- 肉体的な死
- 精神的な死
- 社会的な死
一般的に老いや病気によって、社会的な死→精神的な死→肉体的な死の順で死は訪れる。肉体的な死が訪れるまで、社会的な役割が失われ、心が折れていく過程をたどることになることが多いが、できるだけ社会的な死と肉体的な死の期間を近づけ、苦痛を感じる時間を短くしていくことを心がけるようにすることが肝心である。