骨粗鬆症 骨の健康を守る

骨の健康を守る(1)~骨密度が高いだけでは安心できない

骨の健康を守る(1)~骨密度が高いだけでは安心できない
予防・健康
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骨質の低下が骨折に密接につながる

年を重ねると老化などで骨がもろくなり、転倒骨折のリスクが高くなる。その代表的な病気が骨粗鬆(そしょう)症だ。近年、単に骨密度が低いだけでなく、骨質の低下が骨折に密接につながることが明らかになった。正しい知識を得て、骨の健康をいかに守るかが重要だ。島津製作所との共同研究で「骨の健康」の研究を行った東京慈恵会医科大学の加藤智弘教授と伊藤恭子准教授に最新事情を聞いた。

骨の健康が知らぬ間に損なわれている

自治体などの健康診断では、超音波骨密度測定装置に片方の素足を乗せて骨密度を測定し、平均値との比較で骨粗鬆症の疑いが判定される。ただし、骨密度が低いと判断されても必ずしも「腰痛」などの自覚症状が伴うわけではない。反対に骨密度が高くても安心とはいえないこともある。

「骨ドックで診断した例では、無自覚だったにも関わらず、腰椎(腰骨)の骨折が発見されたケースがありました。骨ドックの受診者は、健康意識の高い方が多いのですが、それでも骨の健康が知らぬ間に損なわれていることがあるのです」と加藤教授は指摘する。

新しい「骨ドック」で健康状態を把握

東京慈恵会医科大学附属病院「新橋健診センター」では、人間ドックのオプションとして骨ドックをこれまでに提供してきたが、2019年から同病院の整形外科と連携し、新しい「骨ドック」(1万9800円)を設定した。

内容は、「骨密度測定」、骨の材料であるカルシウムの吸収を助ける「ビタミンDや骨代謝マーカーなどの測定」、「血液検査」に新たな“武器”が加わった。昨年11月の島津製作所との共同研究に基づき、骨密度を画像で精密に診断する「胸椎・腰椎X腺画像AI診断」、椎体骨折(背骨の前方の部分の骨折)を検査する「椎体計測ソフトウエアSmartQM」、より正確な測定が可能な質量分析器を用いた「血中ビタミンD測定」なども実施する。

骨の総合的健康がわかる

検査結果は、整形外科専門医が受診者向けの「アドバイスレポート」を作成して届けている。最先端の検査機器とソフト、熟練した整形外科医による診断で、骨の状態が把握でき、人間ドックで望みえる最高レベルのシステムだ。

「骨密度測定だけではわからない骨の総合的な健康が、この骨ドックでは詳細にわかります。事前に骨の状態を知ることで、介護保険の要介護認定原因の第3位、転倒骨折を防ぐことができると思います」と伊藤准教授が指摘する。

早めの発見・治療で骨の健康を維持

骨の状態を正しく把握し、適切な治療を受けることが骨の健康につながる。日本では健康増進法に基づく健康増進事業の一環として、自治体が骨粗鬆症健診を行っているが、実施している自治体は約62%、受診率はわずか約5%。国内で骨密度が低下している人が約1560万人と推計されているものの、自分の骨の状態を把握している人が少ないと考えられる。

「骨ドックは、人間ドックのオプションとして実施しています。残念ながら受診率は決して高いとはいえません。しかし、保健師による指導が充実していることで、骨ドックを勧められ受ける方もいます。骨ドックで異常が見つかれば早めに専門医の治療を受けられ、将来に渡って骨の健康が維持されることも知っていただきたいと思います」と加藤教授。

自覚症状がなくても骨には異常が起きていることがある。そして、放置することで骨折リスクが高くなることを覚えておこう。
 

加藤智弘(かとう・ともひろ)

東京慈恵会医科大学附属病院「総合健診・予防医学センター」センター長、東京慈恵会医科大学大学院消化器内科学/健康科学教授、医学博士。1984年川崎医科大学卒。カリフォルニア大学サンフランシスコ校消化器部門留学などを経て2015年から現職。日本内科学認定内科専門医。人間ドック健診専門医・指導医。


 

伊藤恭子(いとう・きょうこ)

東京慈恵会医科大学附属病院「総合健診・予防医学センター」新橋健診センター診療医長、准教授、医学博士。1993年長崎大学医学部卒。米国ベイラー医科大学消化器科留学などを経て2019年から現職。日本内科学認定内科医。人間ドック健診専門医・指導医。

執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。