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推し活で健康になる(1)~ライブで脳が活性化、幸福感で生活習慣病や認知症リスクの低下も

推し活で健康になる(1)~ライブで脳が活性化、幸福感で生活習慣病や認知症リスクの低下も
エイジングケア
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「推し活」で心身ともに張りが出る

大みそかのNHK紅白歌合戦では、YOASOBIが歌う「アイドル」が大いに評判を呼びました。また、伊藤蘭さん(68)が再現したキャンディーズに、往時と変わらぬ“シニア親衛隊”の熱い声援が送られ、印象深く視聴した人も多かったことでしょう。

近年すっかり定着した、アイドルやアーティスト、またはキャラクターなど、自分が愛する“推(お)し”に対して愛情を注ぐ活動「推し活」。実際にこの「推し活」を通じて心身ともに張りが出るという人が増えています。これは若者だけでなく、中高年にも増加しているようです。

「イベントやコンサートなどではおしゃれに気を配ったり、自作のうちわやペンライトを振り、時には黄色い声をあげたり。まるで10代の女の子のような華やいだノリで、生き生きと、かつ若々しく見えるファンの方もよく見かけます」

歌謡曲系の人気歌手やグループを応援する中高年女性ファンについて、都内のレコード店店員はそう語ります。

アイドルも証言「みんな、若い」

女性アイドルを応援する中高年男性ももちろん同様です。グループアイドルでの活動を経て、現在はソロとして活動、先ごろ活動10周年を迎えたゆらぴこさんは「みなさん、いつも若々しく元気なので、ときどき実際の年齢を聞いてびっくりする方もいます。私を推せば、みんな笑顔になれます(笑)。笑顔は気持ちの面から若さをもたらせてくれるもの。そしてライブにきてくださる方はみんなおしゃれだなぁといつも思っています。ライブのためにおしゃれをしようというその気持ちだけでも、きっと若さにつながると思います」と語ります。

50歳を過ぎてからモーニング娘。らが所属するハロー!プロジェクトのアイドルのファンで、『50代からのアイドル入門』の著書があるSF評論家・翻訳家の大森望さんも、実際のライブ現場で明らかに自分より年上の男性たちがはつらつと応援する様を何度も目撃して驚くといいます。

ライブでドーパミンが出る!?

「ライブの盛り上がりを体感することによって、ドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されると思います。そして、曲に合わせたコール(かけ声・声援)も決まったものが多く、歌詞とともに覚える必要もあります。これらは脳の活性化、老化予防にダイレクトにつながるのではないでしょうか」

また、多くのアイドルライブは、本番中に立って観覧することもあります。

「長いときは2時間以上の公演もあります。その時間立っていられる足腰の強さも必要でしょうし、ライブによって鍛えられていく面もある気がします。肉体的な健康面でも、中高年にとっての推し活の良さはあると感じます」(大森さん)

さらに、最近は“振りコピ”といって、ステージ上のアイドルのダンスの振り付けを一緒に客席で真似て応援するスタイルもあります。大森さんは「振りコピは、振り付けを正しく覚えて再現し、さらに体も使いますから、頭も体もさらに活性化する推し活の行動になるのではないでしょうか」と話しています。

主観的幸福感が脳の健康に重要

では、自分が好きなアイドルやアーティスト、あるいはキャラクターなどを応援する「推し活」を充実させることで、実際に“若返る”ことはできるのでしょうか。

『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』や『生涯健康脳』など脳に関する著書を多数持つ脳科学者で東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は、脳の健康のために必要な要素について、「運動、趣味・好奇心、コミュニケーション、睡眠、食事、そしてもうひとつ重要なのが主観的幸福感です」と語ります。

その上で、脳科学の視点からも「推し活」はそれらを複数カバーできる効率的な行動だとみることができるのではないかとの見解を示します。

一体、「主観的幸福感」とはどういったものなのでしょうか。瀧教授は次のように説明します。

■生活習慣病リスクも下がる

「日々、ささやかながら楽しいな、幸せだなと感じること。これが主観的幸福感です。医学的観点からいうと、主観的幸福感が高いとストレスレベルが下がる。それによって動脈硬化性の高血圧や糖尿病、高脂血症、いわゆる生活習慣病のリスクも下がります。結果的に健康寿命が伸びることにつながり、認知症リスクも下がる可能性があると考えることができます」

主観的幸福感を高める活動=推し活とは、先にあげたとおり、脳の健康に必要な要素がいくつも重なるものと考えられます。

「推しという存在がもたらしてくれる精神的な充実感、端的にいえばワクワクする、幸せを感じること。それがまさに主観的幸福感とダイレクトにつながり、これがまず推し活の大きなメリットであると考えられます。日々、淡々と生活するのもいいのですが、生活の中に推しがいて、その情報を摂取することが、主観的幸福感を高めることにつながっていくのではないでしょうか」

好きなモノやコトが脳の健康を維持する

瀧教授は、脳科学的視点から見た「推し活」の本質をこう語ります。

「人にとって、ひいては脳にとって、好きなモノやコトがあるということはすごく重要です。それによってワクワクする、幸せな感情が起こります。『脳の健康』とは、考える、判断する、記憶するというさまざまな脳の機能を維持するということを意味します。脳の健康を維持することが、将来の認知症リスクを下げることにつながると思われます」

推しがいて、それを応援することでもたらされる幸福感。主観的幸福感の高まりは脳の健康につながる、という科学的な説明を聞くと、家族や周囲に対して、やや後ろめたい思いをしてきた人も救われるのではないでしょうか。

解説
東北大学加齢医学研究所教授、医師
瀧 靖之
東北大学加齢医学研究所教授。医師。医学博士。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。同研究所および東北メディカル・メガバンク機構で大規模脳画像データベースを用い、どのような生活習慣が脳の加齢を抑えるかを明らかにしてきた。主な著書に『回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣』(青春出版社)『生涯健康脳になるコツを教えます!』(廣済堂出版)など。
執筆者
ライター
太田 サトル
ライター、編集、インタビュアー。週刊誌でのライター活動を学生時代にスタート。現在はウェブや雑誌などで健康、文化、エンターテインメント記事やインタビューなどを主に執筆。