診察や検査で、別の思わぬ病気が見つかることがある。その変化に気づきやすいのは長年、同じ患者を診続けている「かかりつけ医」だ。がんや心臓病のような大きな病気を早期発見できて命が助かった人、反対に発見が遅れて後悔している人…。明暗を分けた実例を紹介する。
だれよりも長く聴診器を当て、だれよりも深く患者の胸などの音を聞く医師がいる。
東京・多摩地区で呼吸器内科の熟練医として知られる松岡内科クリニック(東京都小平市)の松岡緑郎医師である。
取材の日は、診察場面の撮影を許可された。聴診器をあてる場面では診察室は一瞬、静寂に包まれた。松岡医師は、風邪の症状を訴える患者に対面して、喘息(ぜんそく)の症状はないか、あるいはほかの疾患の可能性はないかと、患者の胸と背中部分に聴診器を当て、集中して聞き入っていた。
「喘息の場合、聴診器からはぜーぜー、ひゅーひゅーという喘鳴音が聞こえます。咳喘息の場合、症状は似ていますが、そうした音は聞かれません」(松岡医師)
クリニックでは午前の部、午後の部と大勢の患者を診ているが、その中で喘息でもなければ、咳喘息でもないような異変を見つけることがある。その1つが気管腫瘍という病気だ。
「喘息と同じようなぜーぜーという音が聞かれ、喘息と判断して治療してもなかなか改善しないケースがまれにあります」
気管腫瘍の70~80%は、悪性腫瘍とされる。内腔に発症して腫瘍によって内腔が狭くなり、呼吸困難、喘鳴、血痰などの症状が出る。松岡医師はこの数年間で、80代女性、30代男性らの症状について、この病気と診断した。治療方法としては「治療目的の気管支鏡検査によって腫瘍を切除する方法のほか、最近ではレーザーで腫瘍部分を焼く方法があります」と松岡医師。
もう1つ、咳喘息の症状に似ているが、気管支結核という病気を見つけることがある。「当クリニックでも咳が止まらない、血痰が出て微熱の続く男性患者さんがいて、この病気の可能性を疑いました」(松岡医師)
患者の痰を取って結核菌がいるかどうかの検査に回したところ、予想通り、気管支結核だった。結核という病気は油断はできない。気管支結核は空気感染などにより人に感染して発症する病気という。
「適切な治療を早期にしないと、気管支等の狭窄が起こります。治療が遅れると、その狭窄は回復しません」
診察室の壁には、日本呼吸器学会指導医・専門医など数々の証書が貼られている。こうした資格を取得するには、学会の加盟年数、整備基準、修了要件症例数などを満たすことが求められている。
2022年から3年間続くコロナ禍によって従来の医療提供体制がほころびも見せている。だからこそ、いざという時に、適切な診断をしてくれるかかりつけ医の存在はますます重要となる。
ただ、信頼できるかかりつけ医を見つけることが難しい場合もある。インターネットに氾濫する種々の医療情報に惑わされることもある。
自分の病気の種類に合わせて、学会の指導医などの基準を満たしている医師や施設かどうかを事前に調べることも、かかりつけ医を選ぶ際の手助けとなるだろう。
松岡緑郎(まつおか・ろくろう)
内科医。1975年順天堂大学医学部卒。公立昭和病院部長、エムクリニック院長などを経て2008年、松岡内科クリニック開設、院長に就任。日本内科学会総合内科専門医・認定専門医、日本呼吸器学会指導医・専門医、日本呼吸器内視鏡学会専門医など。医学博士。